<あらすじ>
夏なので、みんなで海に遊びにいきました。
ダッパーン。
「海だな、竜崎」
ドッパーン。
「そうですね、月くん」
ゴッパーン。
「波が元気だな、竜崎」
ガッパーン、ボシャン。
「今のボシャンはなんでしょう、月くん」ボシャンの正体は、
我らのボボボーボ・ボーボボがサーフボードごと水面に突っ込んだ音に他ならなかった。「…何故僕らはここにいるのか…」
「夏ですから」
「…そして何故彼らもここにいるのか…」
「海ですから」二人は並んで、ただ海を眺めていた。
ボーボボは既に復活して再び波に乗っている。
「ところで竜崎、先程から流れてる歯の浮くようなBGMはなんだ」
「それは月くん、恋愛ドラマらしいですよ。タイトルはサマーナイトドリーム」
「どこがナイトでどこがドリームなんだ?」
「出演者がそう言い張っているからそうなんでしょう」二人の目線がゆっくりと向いた先では、パチ美が破天荒と砂浜に忘れ去られた幼児用シャベルとの間で愛に揺れていた。
「おやびん!俺よりもシャベルがいいんですかッ!」
「破天荒ッ!バケツよりくわよりあなたを愛してたわ!でも私を永遠の砂の城へ導いてくれるのはこのシャベルだけ…!」
「青春だな、竜崎」
「ええ。あの人の年齢私達の一と三分の一倍でしたっけ」十八歳(仮)の二人は、二十四歳の男がシャベルに負けぬ己の想いを語るのをただ見守っていた。
「ところで話は変わるが竜崎、青春といえばスイカ割りかな」
「うーん、私はどちらかというとスイカよりメロンの方が好みなんですが」次に両者の見るところには、ぐるぐる巻き頭の男が棒を両手に目隠しで立っている。
そして彼を何より愛する逞しい女性が、『ソフトン様、右!いいえ、もう少し左よりですわ!』と元気よく応援しているのだった。「しかしスイカは彼らからずいぶん離れた場所に転がってるぞ、竜崎」
「スイカというのは白かったでしょうか、月くん」本物のスイカははるか遠い位置に放置されている。
代わりに、ソフトンの足下付近には白いスイカがあった。
置かれているというか首まで埋まっているのだった。
というかスイカではなく田楽マンだった。
普段の彼なら人でなしぃ、と可愛らしい声を張りあげ必死に訴えるのだろうが、何故か猿ぐつわ。
「彼は無事で済むかな、竜崎」
「彼らは皆頑丈ですよ、月くん。きっと」
「きっとか」
「ええ、この暑さにやられて溶けても、砂に混じる前に元に戻れるほどです」
ふたりの目は再度海へと戻った。
遠くではあるが、青い生き物が仰向けですいーと海の上を流れているのが解る。「彼が溶けたのか…」
「ええ。誰も心配しないなと思ったらいつの間にか元の姿に」
「神秘だな、竜崎」
「そうですね、月くん」海には入らずに、青い生き物を砂浜からじっと見つめているというか見守っている銀髪の少年も見える。
が、そこにずっとサーフボードと夏を語っていた男が登場、波を連れてきた。
青い生き物にボードが直撃。
少年の声が、うわぁ天の助、と叫ぶのが聞こえた。
「あれも青春か、竜崎」
「私達にもあんな頃があったでしょうか、月くん」
「二年前だけどな」
「彼は十六歳だったんですね」
ボーボボはサーフボードを捨て、天の助を新たなボードとして再び波へ挑んだ。ヘッポコ丸がおろおろとそれを見守る。
ドラマサマーナイトドリームは最終回一回前の佳境を迎えたらしく、スナイパーとなったパチ美が泣き叫ぶのを破天荒が必死に説得していた。シャベルはその辺りに放っておかれている。
ソフトンは重大な間違いに気付いたようで、目隠しを外して田楽マンを掘り起こしてやっていた。魚雷ガールが横でスイカを斬り分けて、いや切り分けている。鋏ではなく包丁である。
ドッパーン。
夏の海は景気のよい音をたてて人々の心を踊らせる。
こうなるともう、キラ事件も皇帝決定戦も嘘のようだ。
「…って、ウソなわけないでしょ!」
一部始終を見守っていた少女が、透き徹った声で叫んだ。
「うーん、これが『人間』の『夏』ってヤツか」
「違うよ!絶対違うよ!」死神リュークの呟きを必死に否定する少女ビュティ。
何はともあれ、その後皆揃って食べたスイカはよく冷えていて美味だった。
愛と憎しみと思い出と、欲望と殺意と、優しさだらけの2004年夏。