短い文章(お題なし)上から魚天?、三ボボ?、ボボソフ、ギガハレOV



そこには決して『違和感』など無かった。


天の助はところてんだ。
動くところてん。喋るところてん。笑う、怒る、泣くところてん。
この世界には数え切れない種の生き物が溢れている。
しかし『無機物』として存在が完結したはずのものが動いているとなると、まるで冗談だ。

まったくもって存在自体が、おふざけ。

そんなことを言われて大穴を開けられたものだから、他諸々含めて恐ろしくて仕方がない。
だが触らぬ神に祟り無し。
決して敵であるとは言い切れない今なら、怒らせさえしなければ何も問題はないのだ。

「あんた達またおふざけしたわね!」
「してません!なーんもしてません!」
「ウソおっしゃい、見てなくても解るのよ!他の連中はどこ!」
「他の奴らは…えーと、トイレ!そう、トイレなんですよ!俺は見送ってただけ!」

怒らせさえしなければ。
大きい瞳に睨まれながら正座して、天の助は必死に状況を誤魔化していた。
『おふざけしました』が確実になった時、彼女のパワーは寸分の狂いも無く発動するのだ。
重なるハジケの結果ボーボボと首領パッチが吹っ飛んでしまったため、今ここにはオンリーミー。
これは更に分が悪い。

「本当にしてません!MAJIDE!」
「ウソついたら承知しないわよ」
「俺たち、魚雷先生にウソなんかつきません!」

隠し事はするけど。
心の中で付け加える。今は罪悪感より、命が惜しい。

「仕方ないわね。これからもおふざけするんじゃないわよ」
魚雷ガールはどこからか取り出した椅子に座りテーブルの上のティーカップを口にした。
取りあえず一時お怒りは収まった模様だ。
「ああ…ソフトン様、まだかしら」
その証拠に、彼女の思考はもうソフトンで占められている。
ソフトンは薪拾い当番だ。一緒にいる田楽マンが単品でふざけていなければすぐ帰ってくるだろう。
「早く帰ってくるといいですねー」
とりあえず話を合わせてみる。
考えてみれば二人きりというのは初めてだ。一緒にハジケる相手がいないのは、幸か不幸か。
「そうね。ああ、私も一緒に行けばよかった…魚雷失敗」
「いやーそのお気持ち解りますよー。お茶のおかわりつぎましょーか」
半ば棒読みで言葉を続ける。
「やめとくわ」
あっさりとした否定。
「そうですかー」
もっとも天の助にとっては、肯定だろうと否定だろうとどうでもいいことだった。
だが、魚雷ガールは付け加える。

「にこにこした挙げ句に、顔にぶちまけられたんちゃ堪ったもんじゃないから」

「…え?」
「…そんなことを何で、って顔ね。でもあんたはしたのよ」
魚雷ガールは何故か、微かに笑った。
「お茶じゃなくてスープだったけれども」
「いや、でも…あれはその」
思い出しはした。だがしかし。いや、けれども。
「あなたは馬鹿な生徒の一人…でも他の子と違うのは、この私をただ私として見ようとしていることかしら」
「…いや、それはー」
「良し悪しじゃないわ。けれどあなたを見てると『別のこと』を思うのよ」


さあ解るだろう、こいつはこれから情けない馬鹿をやらかすぞ。
どうしてやろうか。どうにでも出来る。
睨みつけてやればどんな風に怯えてくるか。


「それは、日増しに強くなる」
天の助は魚雷ガールに、妙な感覚を感じていた。
不思議なのはそれが違和感ではないことだ。『普段とは異なっている』のではない。
そうだ、彼女も言っている。日増しに強くなっていくというなら、それは今に始まったことではない。
「時に憎たらしくて堪らなくなる。時に殴ってやりたくて仕方なくなる。時に…」
魚雷ガールはそこまで呟くと緩く溜息をついた。
カップの中を新たに、自らの手で満たす。
「…いいこと。よく聞きなさい、一度しか言わないわよ」
「…は…はい」

「鋏一本でどうにでもしてやりたい、突つき回していたい、弄びたい、閉じ込めたい、締め付けたい…

確実に存在はしているのよ。いつでもね」

『貴様の側に、いつでもな』


「…ッ!」
ぞくり。


「誰の声が聞こえたかしら」
『誰の声が聞こえた?」

私の生徒
天の助


「…あ……」
そこにいるのは見間違いなどなく、魚雷ガールだ。
おふざけを許さぬボケ殺し、厳しく優しい先生、怒らせたら何より怖い。だから怒らせない。決して。
決して。

「…せん、せい」
「なにかしら?」

声はもう、聞こえなくなった。
低くどこか甘い声色と鋏の断ち切る音が消え去った。
何の声だ。何の音だ。誰のことだ。


否、消え去ったのではない。
鉄の身体の内に、少なくともたった今は溶けているだけ。
それだけで、
そこに在るのだ。


天の助の中にも『違和感』などは残っていなかった。
消え去ったというわけではない。そんなものは始めから無かったのだ。
代わりに覚えのある鼓動が、胸をきつく緩く縛り付けたままでいる。








「なあ、ソフトン。俺は不可能を可能に…するんだろうか?」

またボーボボの奴が、妙なことを言い出した。


ボーボボは確かな実力を持った戦士であることに間違いないが、時折なんの脈絡もなく不思議なことを言い出す。
その意味は見えるようで見えない、解るようで解らない。
彼の望む、期待する方向性があるのだろうが、その確かな形が定まらない。
思考は幾度も行き止まりに達し、無言を貫くか答えられぬままでいることも少なくはなかった。

これが例えば首領パッチなら、一秒後にはもう別のことを言っているような奴だから逆にやりやすい。
田楽マンが自分に対して望むことなどは可愛いもので、困るようなことはそれほどない。
彼らは、そしてボーボボも『ハジケリスト』を名乗っているが、その中でも様々なやり方があるらしかった。
やや異なると思われるのが破天荒だ。彼にもまた不透明な謎が多い。
そして彼の目的はその道を極めるというより、首領パッチという存在の方にある気がしてならない。
そんな連中に対して律儀にツッコミをするのがビュティ、そしてヘッポコ丸。
更に勢い良く、『ボケ殺し』と呼ばれているのが魚雷ガールであるらしい。
天の助はどこに属するのか解らない。ボーボボ側かと思うと、必要あらば驚きの側にいることもある。
あまり関係のないことだが「俺、お前より九歳も年上なんだぞ」という主張は意外だった。


「……そうだな」
「やはりそうか」
答えあぐねた挙げ句につまらない言葉で返しても、ボーボボは怒り出すようなことなどしなかった。
確認ではなく疑問系だった気もするのだが、良いというなら構わない。
「男はそうでなければダメだな。これからはわさびの時代が来る」
「立ち向かうものが大きくても、乗り越えねば明日はない」
「さすがソフトン。よく解っている」
二人は頷き合い、そして正面を向いた。
どちらも同じ方向へ身体を向けていたため、同じ風景を視界に広げることになる。


「俺は頼りになるわさびになりたい…」
「向上心を抱くのは良いことだ。俺も成長せねばならん」
「ソフトンにも色々な悩みがあるんだな」
「ああ。だが、お前にも救われる」
「そうか。光栄だ」
「様々なことに頼り救われるのも生きる内だからな。…不可能を可能にする男なんだろう?」
「ああ。…だからもっとすがっていいぞ」
「……頼もしいことを言うな」
「……なんせ不可能を可能にする男だからな」
「そうか」
「どんと来い」


影を溶かすほどの夕陽を浴びながら、二人の男の背ははっきりと並んでそこに在った。



「見ろ首領パッチ、ソフトンとボーボボが神妙なツラして話してるぜ」
「おー、おっとこらしー」
「いや…待てよ。実は他人には聞かせられないような恥ずかしいことかもしんないぞ」
「アリエールな。二人ともなに考えてるかわかんね−もんな」
「何話してるかもわかんねーよな。難しくて」
「お前らその内容、魚雷せんせーに聞かれたらヤバいのら」
「ゲッ、マジで!」
「黙ってろよ!し−ッだぞ、田楽マン」

ソフトンは、一部から密かにある種のハジケリストだと思われていることなど知りはしない。








『三世様を倒したのだったな』


ヘッポコ丸の鼻の中から飛び出た食王が、戦いを終えた後にそう問うてきた。
そうだ。
そうだから、そうだと答えてやった。

『そうか』

そこから感じるものは憎しみではなかった。
恨みつらみでも悔しさでも、悲しみでもなかった。
戦士が戦士を思い戦士を見る、感情。


『侮るな。覚えていろだの負けではないだの、陳腐な言葉など出すまい』

『だが、これだけ言っておこう。好きに受け取れ』

『息の根を止めなかったのならば』

『まだ何も終わってはいないぞ』


どう応えたかはよく覚えていない。
だが、そこは特にどうということではない。
その言葉、その男ハンペンのこと、ハンペンの言う三世のこと、どれもどうということはない。

何も終わっていないということは、再び目の前に現れるということだろうか。
この戦いの中に。
例えば今の世代の毛狩り隊を守る者、例えばかつて戦った四天王、例えばかつて天の助の部下だった男。
同じようにして立ちはだかるというのか。

毛の王国の生き残りとして、守らねばならないものがある。
一人の人間として守ると誓ったものがいる。
己を取りまく連中が在る。
他に誓うものを挙げるとすれば、それを阻む者あらば正面から立ち向かうという、
それだけだ。


乱すものあらば倒そう。
たったそれだけのことが、
何故か気味の悪い疼きになって胸を襲う。


そこでようやく思い出した。
あの男は毛玉だか何かを奪うだのなんだのといって、その手をそこに差し入れたのだ。
前に立った天の助などなんの役にも、もといなんの意味も持たなかった。
既に傷のかけらも無いというのに。

この疼きは何だ。

『貴様があの方を倒したならば、あの方はまた貴様の前に現れるだろう』

ハンペンの言葉の内にはもう一つ、確信があった。


あの男が再び現れる。
己の与えた痛み、受けたであろう屈辱を忘れず、目的を果たしに来る。
己を奪いに来る。


何を思い?何を抱き?何の為に?


そんなことを考えても何の意味もないというのに、
この胸の疼きがそれを忘れさせない。
痛みと疼き。不確かで確かな繋がり。


あの男は俺を忘れない。
ならば、俺はどうだ。








「邪魔ではないのか?」


その男の言葉が前触れを知らぬのは、珍しくもないことだった。
だが主語まで忘れられたのではどうにも返し様がない。

「何がだ」
「その髪だ」
「…あぁ?」
「そんなに伸ばして、邪魔にはならないのか」

疑問というにしてはつまらなそうにハレクラニは問う。
まったくもってつまらないことだと、問われたOVERもそう思った。
「それがどうした」
「別に」
「……」
ただ、自分で言い出しておいてそんな態度を取る相手には納得できない。
「…けッ。どこぞの芸術家様の髪飾りの方がよほど邪魔くせぇじゃねーか」
それはハレクラニに対する、彼なりに相応の反撃だった。
正しく相応とは言えないかも知れない。
その言葉によってハレクラニがどれだけ不快を抱くか、詳しく知るところではない。
「……」
ハレクラニは微かに眉を潜めた。
芸術家様という言葉が誰を表し揶揄しているか、少なくともOVERとハレクラニの間には通じている。
「言い返さねぇんだな」
「…貴様がギガ様を馬鹿にして、あの方に何が及ぶわけでもあるまい」
所詮は他愛の無いことだと言いたいらしい。
反撃の反撃。OVERは呆れたように舌打ちをした。
「芸術家様はお元気かよ?」
「……貴様には関係の無いことだ」
ハレクラニの表す不快がやや濃くなった。
そこから薄らと察することが出来る。
海ひとつ超えた距離が遠いのか近いのかは知らないが、暫く顔を見れていないのだろう。

「…愛想尽かされたんじゃねぇか」
「…!」

喉で笑いながら言ってやると、一瞬鋭い感情がこちらに向いた。
根拠も何も無い発言だが不愉快を引き出すには足りたようだ。
ハレクラニは多少身を動かしたものの、何も言いはしなかった。


それから暫しの沈黙と静寂の後、それは唐突に訪れた。

ハレクラニの気配がOVERの背後へと移動する。
OVERがそれを察した頃には、既に彼は密着するほどに近かった。


「…!何のつもりだ」
「別に」
体を捻ろうとするが、軽く留められる。
不自然な体勢で必死に後ろを睨みつけながらOVERは怒鳴った。
「何してやがる!」
「大したことなどしていない。勝手に前を見て寛いでいればいいだろう」
「できるか!」
辛うじて見えるハレクラニの表情はやや楽しそうに笑んでいて、それが余計にOVERを逆撫でする。
ハレクラニはOVERの、髪に触れているようだった。
すくいあげ指先に滑らせる。
「…意外に柔らかいな」
直接の感覚こそなくとも、触れられていると自覚した以上それは伝わってきた。
OVERはいよいよ止めさせねばと再び身を捻った。


瞬間に、目の当たり。
ハレクラニが己の髪に口付ける光景が、視界の内に入ってくる。


「テメー、何をッ…!」
「…冷たくもない」
ハレクラニはゆるりとOVERの髪から手を離した。
続けて、自分の方を向いてきた怒れる彼の頬に触れる。
「…!離せ!」
「私の髪はお前にはどんな風に見える?」
ハレクラニはOVERの叫びを耳に入れていないようだった。
それに怒りを重ねる前に、OVERの身体は思わず震える。

ハレクラニの柔らかい髪の毛が揺れた。
その下に息づく瞳の、深く濡れ燃えるさま。


『この男は何を考えている?』


「…ギガ様は時折、ああしてくださる」
ああして。
彼の示すのは、口付けのことだろうか。
OVERは微かに頬を引き攣らせながら、言い返しかねていた。
「私もお前のように長くしてみようか」
言いながらハレクラニは、今は向き合っているOVERの髪を再び横からすくう。
「…いい色だ」
「てめぇ。本当にどっかの芸術野郎の趣味が感染ったんじぇねえか…!」
「うつる?あの方の在り様が、私に?…それもいいな」
そして再び、
口付け。
「長い髪はお好きだろうか」

OVERは今度こそそれを力で押して振りほどいた。
距離が出来た、目前のハレクラニを睨みつける。


だが、顔を挙げた彼はうっとりと笑っていた。


「…私は嫌いではないな。その、睨む目も」
「……」
「あの方はなかなか、そんな瞳はしてくださらないが」


ハレクラニはまさか自分とギガとを勘違いなどしていまい。
だが触れてくる、たった今再び伸ばされたその手の示すもの。
OVERはまた何ごとも言えず、目も逸らせずにいた。



まるでこうして向かい合って立ちながら、
もつれあって沈んでいくかの様な錯覚を覚える。








魚&天はこれじゃOVER天ですね。ボボソフはソフトンの天然ぶり(?)を。
三ボボはどちらかというとハンペンの語る三世。ギガハレOVは、なんかもうすみません…

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