短い文章(お題なし)上からOVER天+周りの人々、石田&天の助+OVER





「おい天の助ー」
「んぁ?なんだよ首領パッチ」
「なんでもねーよ」
「んじゃ、なんで話しかけたんだよ」
「…なんでもないワケないでしょ!なんでもないワケないじゃない!」
「え!?ないんじゃねーの!?おかしくない!」
「おかしくないよ」
「そうか」
「うん」
「んで、何よ?」

座り込んだまま向き合ってやると、正体不詳のハジケリストは正面にしゃがんできた。
首領パッチ。
彼ときたら、いつもいつも唐突なのだ。
ボーボボにだってもう少し前振りらしきものはあるというのに。
こうして落ち着いて話してみても、言いたいことが解らないのもしばしばだ。

「魚雷せんせ、最近見なくね?」
「あ、うん。そーだなぁ」
「お前知ってるんだろう…吐けよ。吐いて楽になっちまいな」
「…はい、俺がやりました………じゃ、ねぇー!知らねーよ!」
「カツ丼取ってやろうか」
「取調室の丼って自腹じゃねーか!ソフトンに聞けよ、ソフトンに」
「ソフトンは知らねーってよ」
「なんだ、もう聞いてきたのかよ。…なんかお前ってせんせーに懐いてるよなあ」
「そりゃオメー、僕らの先生だぞ!尊敬するっきゃねーだろ!」
「っていうかなんで俺に聞くんだよ?」
「あぁ?そりゃもちろん」

「魚雷先生、OVERになってるかも知れねーだろ?」

「はぁ?」

どうしてそうなるのか、
やっぱり解らない。






「OVER様ー。OVER様、失礼しまーす」
「入れ」
「はーい。あ、蹴人ですよ」
「…声で解るだろうが」
「でも、珍しいなって思いません?」
「さあな」
「今日のお茶菓子は僕が買ってきたんですよ。だからお茶当番も代わってもらったんです」
「あー、そうかよ」
「ルビーがずるいってむくれてましたけど。代わってくれたのはインダスなのに」
「………」
「あ、ほら見てください。お煎餅なんですけど、色んな味があって…」
「…煩ぇ」
「はい!」

側に置いている部下のひとりである無限蹴人は、時折妙なところのある少年だ。
睨んでやれば、怯える時には怯えてみせる。
そのくせ機嫌がいいとそちらに気がいってしまうのか、
何があってもにこにこと笑っている。
今日は相当に良い様だ。

「辛いのだけじゃなくて甘いのもあるんですけど、召し上がってくださいね」
「……」
「お疲れの時には甘いものがいいんですから。スポーツの後とかー」
「誰が疲れてるだと?」
「だってお帰りになったばっかりだから」
「…だからどうした」
「あ、もしかして誰かに会いに行ってたとか?」
「人の話を聞け!」
「聞いてます!…あ、茶柱」
「聞いてねえだろうが」

「でもこのお煎餅って評判よくて……ああ、そうだ。
 食べ物っていえば、ボーボボ一行に動くところてんがいましたよね」
「………あぁ?」
「どんな味がするのかなあ」
「……」
「甘いのかな?辛いのかな…ところてんってどんな味だっけ?」

熱い湯飲みと菓子鉢をOVERに差し出しながら、
やはり笑顔で少年は首を傾げた。






首領パッチは魚雷先生のことをわりと慕ってて、OVERだとそうでもないんだろうけど、
それでもそう悪くは思ってないみたいだ。
それはそれとして、どうして俺が知ってるとかどうだとか思うんだろう。
あいつのことを。

蹴人の奴はあの馬鹿とも戦ったらしいが、何か面白いことでも起きたのか。
そんなことはどうだっていい。
それよりも何故俺に対して、世間話の様にして語ってくるのか。
あいつのことを。


どこにいるとかいないとか、俺に言われたって困るんだ。
何か意味があるのかもしれないけど。

甘いだの辛いだのそんなことはどうだっていい。
意味も何も無いのかも知れないが。




何となく、奴に文句のひとつも言ってやりたくなった。






「ああ、首領パッチだ?…トゲ小僧が何だか知らねぇが、そんなのが俺に関係あるか!」
「っていうか蹴人っての、そーいやお前の部下だったんだよなー!
 ちゃんと言っとけよ、人様のこと踏むなって!食いもん粗末にするなって!」
「知るかッ!」
「俺はライチだ、ライチ味だー!!」

向き合ったら向き合ったで、互いに気付かずどんどん外れていってしまうのだけれど。

「OVERの短気!横暴!長髪!前髪下ろしてサラサラストレートにしてやる!」
「言いながら逃げてんじゃねーよ…!」
「わーい」
「待ちやがれッ!」



まあ、例えばこんな風に。















『その時になったら、また好きにするといい』


その頃にはしたいことなど無かったような、
もう既にあった、ような。





俺は十円になってもちっとも売れなくて毛狩り隊に入ったんだけれど、
それをクビになってから結局二十円にはなった。
にじゅうえん。
つまり、俺は二回買われたことになるのだ。

変な話だよな。
食い物って一度買って食われてって流れが普通だし、
返品されたりしたんなら廃棄だしさ、
そもそも俺の賞味期限なんてとっくに切れてんだよ。
でも、こうやって生きてるってことは消費期限はセ−フになるのかなあ。
なんか微妙に悲しくなってくる。

それはそれとして、そうなんだけれど、
とりあえず俺は『二度売れた』だなんて思ってはいない。
なんとなく自然に、『何処にいたって一度目に買ってくれたやつのもんなんだ』って考えてた。
それはやっぱり俺が食い物として生まれたからだろうか。


だから俺はレジに消えた二枚目の十円玉に困っていたんだけれど、
そんなことなんか忘れちまうぐらいに別のことにも困っていた。



「土日は火星で戦ってます、かー……」
「お疲れさま」
「…どわッ!」

俺はそいつのことがさっぱり解らなかった。
何が解らないって、何もかも。
無表情で、何考えてるのか解らなくて、なんかどっかの本部に雇われてるらしい。
そして宇宙で戦っている。ぶっちゃけ侵略者だそうだ。
んでもって、俺を最前線に送り込む。
涼しい顔をして送り込む。
色の無い、無機質な優しさを持った声で
容赦なく放り込む。

「土日は火星で戦ってます。ポスターでも作るか、天の助君」
「どんなポスター!?」
「募集」
「…なにを募集すんだよ……」

それがどんな組織なのか、どんな奴がいるのか、どんな風に出来てるのか、
そんなことはまったく解らず俺の目の前にはそいつばかりがいた。
無表情で、何考えてるのか解りやしない男が。

「疲れたかな」
「…つかれたー」
「疲れるようになっているんだな。ところてんなのに」
「そりゃ、なってるよ。眠るし食うし」
「結構、それなら休むといい。そして明日は前線基地だ」
「涼しい顔してそーゆーこと言わないでッ!」

男は優しいようで優しくなくて、
厳しいようで厳しくもなかった。



十円で売れておきながら、一緒にいた連中と別れてまたスーパーに座り込んだ俺を、
あいつがじっと見ていたのはいつだっけ。
珍しがってる『だけ』ではなかった。
だってあいつは俺を買っていったんだから。

そして俺は指示通り、『戦う』ことになった。
買ってもらった以上は、例え二回目だってそうする必要があると思った。
しかし一回目にしろ二回目にしろ、毛狩り隊にいた経歴は確実に活かされている。
どうにか生き残れるぐらいにはなってるみたいだから。



「天の助君は本当にところてんなんだな」
「……」
「全部?」
「…まあね」
「不思議だ」
「(あんたの方がほんと不思議だよ…)」
「うん?」
「いーや、なんでもないですなんでも」
「そうか」
「…なあ」
「なんだ」
「あんた、なんで俺のこと買ったんだよ?そんな強そうに見えたん?」
「さあ。だが実際君は役に立っている」
「そ、そーお?」
「戦闘能力はそこそことして驚くべき再生能力。緊急事態の際には盾にもなりうる」
「…ってそれかよ!褒められた気がしねぇー!」
「羨ましいな」
「なにがよ…」
「元に戻る」
「…まあ、役にゃ立ってんだろうけどさ」

「もし私が壊れたとしても」
「…ん?」
「自分からはどうすることも出来ない。上の判断で直されるか、放られるか」
「…え?っていやちょっと待てよ、……壊れ…?」
「何にしろ幾らだって代わりが利くんだ。それは全て私であり、もう私ではない」
「待ってってば。…つまり、あんた……」
「君は不思議だ。動かないはずのものが動いて、脆いけれども実はずっと頑丈に出来ている」
「………」
「君がそうして動いて息をしていること、君自身はそこに何か意味を見出しているのか」
「……意味?」

「…意味、なんてなぁ」

「例えば俺のこと最初に買ったのは、ある男なんだけど」

「色々あって、結局俺は食われはしなかったんだ。でもそいつが俺のことを買ったのは間違いないんだ」

「そいつが俺のために、生まれてはじめて金出してくれたのは確かなんだ」

「それは君にとって大切なことだな」
「…そりゃぁそうだ。俺は生きてたってところてん、なんだから」
「忘れられないことがあるのなら、少しずつ調整をしながら捨てずにいるべきだ」
「何してるかなあ、あいつら……」
「会いに行くといい。週末にでも」
「…週末は塞がってんじゃんよ」
「だから、私がなくなったらだな。
 君を十円で買った『私』がいなくなれば、君は土日に火星で戦うこともなくなる」
「…それ、いいのか?」
「次の私が君を知っているかもしれないが」
「……いや。つまり、知ってたとしても…そん時は断っていいってことだよな」
「そうだな」
「じゃあ、覚えとく」
「ああ、よく覚えておくといい。明日かもしれないし十年後かもしれない」
「…そんな、はっきりしなくていいの?」
「構わない。百年後だろうと、どうせ私は歳をとらない」
「…俺もとらない。…たぶん」
「ならば安心だな。君はいつか自由になれる」
「安心、なのか?……今自由にしてくれたっていいんだけどー」
「それはまだ早い。明日は前線基地だ」
「だから前線基地って、それも早いだろ!来週にしよ−ぜ!?」

「何にしろ、その日は例えいつだって来る可能性を持ったままでいる」

「私には敵も多いしね」

「だから君は」

「その時になったら、また好きにするといい」





俺はその時が来るのをきつく切望というほど願いはしなかったけど、
いつか当然のようにやってくるのだということを理解した。
その通り、永遠なんてものはどこにもないのだ。
ただその男も『俺も』、予想される場所、定まった場所にそれがないだけ。
明日来るかもしれない。十年後、百年後に来るかもしれない。もうずっと来ないかもしれない。

その男にそれ以上話を聞くことを、俺はしなかった。
しようとは思わなかった。
相変わらず土日は火星で戦ったし、そう、ダイコンブレードとぬのハンカチが頼りだった。
そいつはもしかして俺の知らない内に何度か違う『そいつ』へと替わっていたかもしれない。
どちらにしろ俺は暫く、
週末の侵略者の手先になった。


再会はそんなに遠くなかった。
具体的になんだってわけじゃないけど、『やりたいこと』は見つかったんだ。
だから俺はそこを離れた。
あんたは無表情のまま起き上がったのかもしれないし、
そうではなかったのかもしれないけれど。



「…どにちはかせいでたたかってまーす」
「あぁ?ボケたか」
「んなわけねーだろ!これ、なかなかいいと思わない?」
「知らねぇな。何時とは言わず今火星まで飛ばしてやろうか?」
「え、何!?バッター鋏を大きく振りかぶって…って飛ぶかー!」
「飛ばす」
「いや、明らかにムリって解ってるじゃんそれ!あー、OVERって俺にばっかりそうだ−!」
「テメーの胸に聞くんだな」
「ぷるぷるしてるよ」
「……」
「だってところてんだもん!火星に行ったって生身で動けるぜ、すごいだろ」
「……フン」
「…なんだよー、そのすっげー上から呆れた表情」
「ああ、呆れてんだよ。…テメーにゃ火星すら勿体ねぇ」
「火星すらって、お前火星さんに失礼だぞ!…って俺にも!俺にも!」
「うるせぇ、何処にやろうがテメーじゃ不釣り合いだ」
「ひでー!なにそれ動くなってこと?」
「……テメーの胸に聞きやがれ」
「ぷるぷるして」
「いい加減にしろッ!」


ひでーなぁ、OVER。俺二回も売れたことがあるのに。
身一つしかないから、ひとつの場所にしかいられないけどさ。
例えばこうやってズバズバ斬られてたら、こっから動けません。逃げたくてもなかなかダメ。

スーパーにいた。毛狩り隊にいた。
今はここにいる。
あの時はあいつのところにいた。

それは『俺が』そうであると同時に、あいつだって同じだったはずなのだ。
あの時、あそこじゃない何処かに存在したわけでもない。

あいつは、あいつとして、ひとつの場所にしか存在しないのだ。


なあ。
あんたは俺には代わりがなくて自分にはあるようなこと言ってたけど、
俺を十円で買ったあんたはあんたしかいないんじゃないか。


俺は土日の侵略から解放されて、
騒がしい奴だとかまともな奴だとか鋏でぶすぶすやってくる物騒な奴だとかと、
戦ったり戦わなかったりする日々を送っている。
こきつかわれる日々よりずっと楽だ。ずっと大変だ。
あれ、どっちだろう。
どっちでもいいか。


「ほら、空でも見上げて落ち着こうぜ。でもやっぱり俺の方がより透き徹って、あーッ!!」
「…極悪斬血真拳。ザクロ」
「…あ、あきねーよなあー…俺もですけど……ぐふっ」





そら。
空を見るとなんとなく、
もっと遠い星のこととかを考える。










OVERと天の助がなんかどうしようもない話と、
天の助がどうしようもないけど石田がどうなんだっていうような話。
ボゲー九極戦士の石田が衝撃的でした。

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