繰り返して言うのは難しいことではないけど、色々考えてやっぱり言わない。
言うのは言うだけしたい時でいい。
くっついてじっとしてあったかいなぁって思ってるだけでも、どうやらしあわせみたいだ。
「どうした」
走ってきたと思えば挨拶なしに飛びつく俺に、男は素っ気なく尋ねた。
素っ気ないっていうか涼しげっていうか、なんかむかつくくらいカッコイイのだ。
いいなあ、俺もかっこよくなりたい。ぴっとりくっついたまま何も答えない。
「どうしたんだ?」
今度はちょっと困ったみたいに聞いてくる。
こいつは俺の友達の中ではすげーまともな方だ。
まともだし、真面目だし、謎多し。でもいい奴。
だって優しいんだもん。なでてくれるもん。
「ボーボボがいじめるのらー」
「今度は何をしたんだ」
「酷ッ!それじゃオレ悪いみたいじゃねーか!」
何もしてないもんね。
訴えて更にぎゅうぎゅう腕にしがみつくと、男、ソフトンは俺を抱き上げようとしてくれる。
いいなー。ソフトンは優しいなー。
「やだッ!アタシのウン吉君が!」
こいつみたいに俺のことミックスしないもんねー。
「…ってボーボボ来てたー!」
「なんだボーボボ、お前までいつの間に」
「ウン吉君逃げて!その小悪魔、アタシの頭ん中住みついて壁打ちやるのよ壁打ち!」
やつのアフロの中はなかなかの快適空間なのだ。
でも抜き打ちとか言って色んなことしてくる。ヒドイ。
「悔しいから三番スイッチ押してやったわ」
「なんのスイッチだ…?」
「ぐるぐるまわって気持ちわるかったのら」
もう超ミキサーだった。
ボーボボはいじめっこだ。
でも俺の大事な友達なんだけど、
とはいえやっぱりいじめっこなのだ。
ソフトンはそこんとこ大人だ。
「ウン吉君は来月アタシと式挙げんのよ!小娘の出る幕じゃないのッ」
「まあーこいつ言ってくれちゃって!年齢なんて関係ないのら!」
「…いや、そうなのか?」
ビュティいない、ヘッポコ丸いない、なのでソフトン大変だ。
首領パッチがいたらたぶんもっと大変だった。でも首領パッチすき。
天の助がいても大して役に立たないだろう。あいつ、へたれ。でもまあ、きらいじゃない。
魚雷先生はシカトしてくるけどすき。破天荒はカッコイイのであこがれ。
「ソフトンの右腕からは離れないのらー!オレのー!」
「できれば肩に乗っかってもらった方が楽なんだが」
「じゃあ肩もオレのー」
「なにさ!…じゃ、アタシ左貰っちゃお。どりゃっ」
「っと、おい、ボーボボ」
「ウン吉君の左腕たくましーい」
いやいや絶対お前のがたくましいのら。
っていうかボーボボのやつ、いつまでオカマやってんだろ。
「…両側から押さえられると動けないんだがな」
やれやれとソフトンは溜息をついた。
「だそうだ。田楽、降りてやれ」
あ、戻ってきた。ボボ美からボーボボに。
「やなのらー」
「なんだと−」
ボーボボだって離そうとしないくせに。
ソフトンを真ん中に、俺達は睨み合う。
「…まあ、いい」
なんてやってたらソフトン、わらった。
「両手に花……ということにしておくか」
わぁ。
「かっこいいのらぁ」
「ウン吉君サイコー!」
きゃあきゃあ。
ぎゅうぎゅう。
「魚雷先生にはナイショね。ブッ飛ばされちゃう」
「ナイショナイショなのらー」
「いや…息が合ってきたな、お前ら」
ソフトンは肩を竦めたかったみたいだけど、俺達がくっついてるので、できなかった。
「あんたちょっとウン吉君に甘えすぎよ」
「いいんだもーん」
「田楽マン、落ちるぞ。もう少し安定したところに移動しろ」
「やさしいのらー」
「きィ、ちょっと可愛いと思って!」
「そう怒るな、ボーボボ」
ボーボボ、こんな感じだけど、やっぱりすき。
「腕にしがみつくってのはそんなに気持ちいいのか?ソフトンだから?」
「うれしいのらー」
「うん。よう解らん」
「…まあ、座るか?二人とも」
「そうだな」
「のらー」
ソフトン、だいすき。
だいすき。
だぁいすき。
「じゃあオレソフトンの膝に乗っちゃう」
「あ、テメー田楽!オレにはできないと思って!」
「そうなのか?」
「えーソフトン、だってお前潰れちゃうじゃん。細いから」
「…そうか…お前逞しいからな」
たぶんいちばん。いちばんすき。
いちばんなんだけど、思いっきりそれを伝えたいんだけれど、
二人っきりがいいのになかなかそうはいかない。
だからいつだってそれを『たのしみ』にしておく。
言うのは言うだけしたい時でいいんだ。
そんなオレはだぁいすきを、くっついたり追いかけたりして目一杯あらわしてみる。
あなたがいなくちゃ私はないの
私が生まれたのあなたのおかげ
私が生まれたのあなたのせいよ
『やさしくてつよかった女の子』
記憶の底でひかってた
『きびしくていとしかった姉さん』
あなたのせいよ
でもね私がうたうのは
あなたじゃなくて
あの子のためよ
かわいくわらって居場所をさがした
ちいさなあの子の所為なのよ
私は記憶
あなたの虚像
けどそれだけじゃ完成しない
わたしはわたし
あなたじゃないの
戦う歌姫
あなたではないの
時計の針がくるくるまわる
停められないの
そんな力はないの
戦い終われば
私は消える
そのために生まれた
私はかえる
どこにかえるの?
またいつうたうの?
私は虚像
あなたの虚像
けれどわたしは
あなたではないの
わかってるけどあなたがこわい
すこしだけこわい
ほんとはとてもこわい
優しい姉さん帰ってきたら
虚像と記憶は重なって
男の中にはまたひとつ
新しい現実が生まれるわ
わらうのに慣れたちいさな子の中
歌う私はまだいるの
踊る私はまだいるの
私に心があるのなら
あの子の不機嫌も私のせいね
私はいるわ
ここにいるわ
必要だったら
また歌うわ
あなたはわたし?
そうではないけど
わたしはどこかで
あなたがこわい
私はうたう
戦う歌姫
わたしは踊る
そうして眠る
ここにいるのよ
わすれないで