モニターから溢れる光をただ見つめ続ける。もう数刻ほど休まずにこうしているが、疲れるどころか気分が高揚していくのが自分でもよく解った。
この日をずっと待っていた。
来る。
こちらへ向かっている。
距離が縮まっていくのを全身が感じている。
早く。
さあ、早く来てください。
ここに。
僕の目の前に。

あなたは、僕が殺すんだから。




ひかりかがやくもの



何かに合わせて生きるのはあまり得意ではなかった。幸いそうしたいとは思わなかったし、そうしなくてはならない時も別になかったから、苦痛を感じることも無かった。
他のもに対してそこまで深い関心を持つことはなかった。
全てにおいてそうであればもっと楽な一生だったのかもしれない。
けれどもどうしても譲れないものがあったために、壁にぶつかる日がやってきた。

キング・オブ・ハジケリストの称号は、ハジケリストとして誰よりも上であると認められる証だ。
ハジケリストという立場は自分に、ライスという人間にとってのほぼ全てだった。
真拳使いであるということも、ハジケリストとしての自分と組み合わさって初めてひとつの意味になるのだと考えていた。
当然その称号を得るのは自分であるべきだと思っていた。
他人との付き合いをほとんどしなくても、他のハジケリスト達の実力くらいは知っている。
負けたことなど一度もない。そしてこれからも負けることなどないだろう。
だから最高の称号にはこの自分こそが相応しい。
今までも、これからも。

 

その時は本当に、己の勝利を信じて疑わなかった。別に他の連中をけなすわけではなく、自分より優れたものなどないと感じていた。
それを間違っていたと後悔しているわけではないが、実際はその通りにはならなかった。
キングの名を与えられたのは自分ではないハジケリストだった。ライスも最後の候補として残りはしたらしいが、比べられて負けたのだ。
納得がいかなかった。
最高の称号を受け取ったのはハジケ村の首領パッチだと聞いて、それでも納得しきれなかった。
確かにその名は何度も聞いてきた。
ハジケリストの中にも彼を己より上、優秀であると認め噂するものは多くいた。一度も会ったことは無かったが、優れたハジケリストであることは知っていた。
それを認めないわけじゃない。
しかし自分の方が劣っている証拠は無いのだと、勝負を申し込もうとした矢先にさらに信じられないことが起こった。

首領パッチはキング・オブ・ハジケリストの称号を突き返した。
だからこの証はお前のものだ。

そんな言葉で誰が納得するものかと、文句ひとつ言う暇もなく首領パッチはハジケ村から姿を消した。ふらりと旅に出たのだという。
確かにハジケリストはひとところにとどまっていたのでは成長しない。つまりは経験と知識、それらのために旅をすることはなんら不思議ではないが、突然称号を返したと思えば姿を消してしまうというその行動は理解しがたかった。
逃げ出したのか?しかし、知らない相手から逃げる理由などあろうものか?
生まれて初めて他者のことで悩み、慣れない頭で必死に考えた。
首領パッチのことを調べ、人から話を聞き、それを繰り返しては忘れられなくなる。
彼のことを組み立てていく思考はやがて一つの答に行き着いた。

そもそもそこに理由などなく、もっと単純で純粋なことだったのかもしれない。
首領パッチは称号や証などいらなかったのかもしれない。
名誉や賞賛を欲しがることをしない、望むままに生きていくハジケリスト。
彼には最初から競おうとする気そのものが無かったのだ。

それを感じた時に、決めた。今のままでは誰も自分のことを認めはしない。だからといってキング・オブ・ハジケリストの座を放り出す気にはならなかった。
超えて見せればいい。
ハジケリストとして彼に勝利すれば、この称号を確実なものにできる。

その日からずっと忘れたことはなかった。
間違いなく、出会うべき存在。追い続けるべき存在。超えるべき存在。

(あなたは僕のことを知らないが、僕はいつだってあなたを見てきた)

多くのハジケリスト達が認めた存在。
最高の称号をあっさり蹴った存在。
きっと自由で気まぐれで、強い。

(だからあなたを超えてみせる)

いつか必ずあなたという存在と向き合って、その上に行く。
自ら捨てたはずの栄光がまだあなたに取り付いているのら僕がそれを殺してみせよう。
その時僕は本物になり、そして認められるのだ。
誰からも。
あなたからも。

「…そろそろか」
首領パッチが他の連中とともに、だんだんと上のフロアに上がって来ている。
ハジケブロックから声がかかった時は断ろうと思っていた。毛狩り隊のことは毛狩り隊が勝手にやっていればいいのだ。こちらに被害が来るなら退けるまでだが、わざわざ首を突っ込む気になどならない。
毛狩り隊の天敵であるらしいボーボボという男のことも知らなかった。
しかし彼らから、ボーボボの一味にはあの首領パッチがいると聞いた時に気が変わった。
掴めそうで掴めなかった首領パッチとの繋がり。
思いもしなかったところから運命だと言うかのように姿を現した。
追いかけて捕まえるどころか、向こうからこちらを目指して来てくれる。
「さあ、先輩。きっと楽しい時間になりますよ」
モニターの中のその姿を見て、ライスは笑った。
身体中が熱くなっていくのが解る。
こんな風に心臓が高鳴るのは初めてだ。
追い続けたいた光はすぐ側のモニターの中の光になり、そして目の前の光になる。
その光とともに、待ち焦がれていた時間を過ごすのだ。

僕は超える。あなたを超える。

あなたが僕を追ってくるくらい、上に行ってみせる。






ライスって首領パッチのことどう思ってたのかなーと考えながら書きました。
「あなたは僕が〜」の台詞のこととか、捏造しまくってみました(駄目)
過去の話も詳しいところが描かれてないのをいいことに捏造し過ぎました(…)

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