大地はどこまでも、花に埋まっていた。
一面の花畑は優しく柔らかく春の香りをさせている。






ビュティは少し前に寄った街で買った、色鉛筆の箱を手にとった。
箱は小さく中の色もそんなに揃ってはいなかったが、それでも十分だ。

椅子に腰掛けたまま視線を動かすと、やはりそこには一面の花畑と、幾つかの人影が見えた。

最初に視線が合ったのはソフトンだった。
ソフトンはこちらを見ていたようで、驚いたのか一瞬目を逸らす。しかしビュティが笑って手を振ると、小さく振り返してきた。
その少し離れた場所では破天荒が寝転んでいた。空を見ているのだろうか、視線が合うことはない。その様子はどこか彼に似合っているように思える。
ちょうど二人の間ほどの位置で、首領パッチと天の助がはしゃいでいる。
今日は少し風が強い。風に飛んだ花びらが舞い上がるのが楽しいのだろう、二人できゃっきゃと騒ぎながら腕を振り回していた。
そんな二人をヘッポコ丸が見ている。その視線は微笑ましそうで、同時にどこか羨ましそうにも見える。
そして最後に、ヘッポコ丸とは逆隣にいるボーボボを見た。花冠作っているようだ。
逞しい戦士であるボーボボが背中を丸めて花を編むのは想像だけならば不思議な光景のようにも思えるが、実際見てみるとどこか可愛らしく似合ってすらいる。
ふと、ボーボボの視線がこちらを向いた。
目が合うとビュティは微笑みで返して、目線を落とした。
そして新品の色鉛筆を走らせた。




「何を描いてるんだ、ビュティ」
暫し一生懸命になっていたビュティは、驚いた。仲間達が揃って自分を覗き込んでいる。
「お、これ俺たちじゃねーか」
「あ!まだできてないの、もうちょっと待ってー」
天の助の声にビュティはそれを隠そうとしたが、逆隣から見ていた首領パッチが不満そうな声をあげる。
「俺いねーじゃん」
「首領パッチくんはこれから描くの」
「えー俺最後!?しょうがねえなあ、俺は気合い入れて描かないとダメだぞ。ほら、こんな感じ」
そんなことを言いながら色鉛筆の箱から一本取り出し、ビュティの描いた絵の横に自分を描き加える。
「て、自分で描くの!?」
「どーだ。カッコイイだろ」
「さすがおやびん、お上手です!」
他の誰かが何も言わない内に、破天荒が力強く同意する。首領パッチは当然だと言いたげに頷いて、もう一本別の色を手にとり破天荒に渡した。
「ほら破天荒、お前もなんか描け」
「何を描きましょうか」
「んー…よっしゃー、打倒ボーボボだ!」
「俺ー!?」
首領パッチのよく解らない指示にボーボボは叫ぶ。しかし破天荒はそれで納得してしまったらしく、解りましたと言うとボーボボの絵に鼻毛を付け加える。
そして自分の絵から腕を伸ばしてそれを掴ませたところで、その手は止められた。
「その辺りにしておけ」
ソフトンが破天荒を抑え、もう片方の腕で首領パッチも抱える。
「人の絵に許可もなく落書きをするもんじゃない」
「ッ、何すんだこのソフトクリーム野郎!」
「離せー!離せー!」
二人を抱えたままソフトンは歩いて行ってしまった。彼の言うことは正しい。もっとも首領パッチには悪いことをしたつもりは無いだろうし、破天荒も首領パッチが絡めば常識は通用しなくなる。
苦笑しながらビュティがそれを見守っている内に、天の助がまた別の色鉛筆を手に取っていた。
「ビュティの絵は、上手だが致命的な欠陥があるな」
「欠陥って何だよ」
ヘッポコ丸が問うと天の助はフ、と笑って絵の中にハートマークを書き足す。
絵の中のヘッポコ丸の瞳にあたる場所だった。
「ビュティを向いてるお前はこうだ!これでカンペキー」
天の助は誇らしげに叫んで、ソフトンが歩いて行った方向へと跳ねて行ってしまった。
「え、あ、お…おい天の助、お前!待て!!」
顔を赤らめるやら複雑そうにするやら、大慌てしてヘッポコ丸がそれを追いかけて行く。
そしてそこにはビュティと、ボーボボが残された。
「なかなか上手いじゃないか、ビュティ」
「へへ。そうかな」
ビュティは照れ笑いして自分の絵と、走って行った仲間達とを見比べた。
少し離れた場所で破天荒がソフトンに何か言っている。先ほどのことを怒っているらしいが何故か首領パッチはそこにいない。見ると、天の助と一緒になってヘッポコ丸から逃げ回っていた。ヘッポコ丸に何か言ったのか、ただ混ざっているだけなのかは解らないが、とても楽しそうにしている事ならば見ていてよく解る。


怒ったり、笑ったり。
続いていく日々には様々なことがあるが、こうして過ごす穏やかな時間ほどビュティにとって幸せなものはない。

「あのね、ボーボボ」
「ああ」
「私、とっても楽しいよ」

みんなが楽しそうだから。

「大好きだよ、みんなのこと」

それは少し恥ずかしい言葉かもしれなかった。
ただ何故か、それを今ボーボボに聞いてほしかった。

「…俺も、今は楽しいぞ」

ボーボボはそれに応えるように呟いた。それは本当に小さな声だったが、ビュティは聞き逃さなかった。
ボーボボはこう見えて割と不器用だ。はしゃぐことはできても、時には格好良いことを言っても、楽しいだとか嬉しいだとかそういうことをなかなかはっきりとは言わないのだ。


 そうだね、楽しいよね。みんなで笑えるのは、とっても嬉しいよ。
 いつまでも続くことはないけど、こういう時間を作り出せることはいい事だよね。
 こうやってみんなで笑っていられる時間を大切にしたいよ。
 私ね、ボーボボが楽しそうだと、幸せだよ。


「ね、ボーボボ。私達も行こう」
「…ああ」


穏やかな騒ぎの中に、二人の声が加わる。
花畑の中を風が、花びらが舞い、ビュティの描いた絵と彼ら自身とを包み込む。

その花びらの中に桜の花びららしきものが混じっているのに気付いて、ビュティは思わず辺りを見回した。
そうだ、今日は風が強い。この花びらも、どこからか運ばれて来たのだろう。
近い内に桜が見れそうだ。



厳かな音をたてて流れる滝も、どこまでも赤い夕焼けの草原も、皆で揃ってそこにいれば怖いとも寂しいとも感じはしない。
だから、桜の花を。
今のように笑いながら見たいと、そう思う。






ボーボボ新EDのネタ。それで書いちゃうのってどうなんだという話ですが。
あの雰囲気が堪らなく素敵に思えて、無意識の内に書いて放映日その日に更新…
ボボビュっぽく、見方によっては他のカップリングっぽく…?
駄目でしょうかこれは。でも置いちゃうあたり、私が駄目だ。

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