ないものねだり





妙なトゲのついた人間タイプとは遠い生き物と、形は人に似ているものの全身軟体食物である生き物がきゃっきゃとはしゃいでいる。
そしてそれを二人の男が、それぞれ離れた場所から思い思いに眺めている。






ああちくしょう、ところてんめ。
さっきからおやびんにひっつきやがって。
いっそロックしちまいたいが、おやびんが楽しそうなところに水を差すのも気が引ける。
俺だってハジケリストを名乗って数年、入り込むべき時とそうでない時ぐらい解ってる。
今は、入り込む隙が見付からない。
ああ、どうせ俺はハジケリストには決して向いちゃないんだろうさ。
だがおやびんについて行こうって気は誰にも負けてない。
それに加えておやびんを想う気持ちだって誰にも負けちゃいない。
だからこそ今は入り込まないし、入り込めない。
それにしてもあのところてん、ちょっとは気を遣いやがれ。
解りにくいんだ、あいつは。ボーボボとも違う、ガキどもとも違う。扱い方が解らねぇんだよ、だいたい。
あああ、あの野郎おやびんを!何に!

くそ。
それにしても、おやびんは俺をあとほんのもう少し意識しちゃくれないだろうか。
二人きりの時だけじゃない、他の連中といる時も、俺を。
というか、もうちょっとべたべたしてくれたっていいんじゃないかとも思う。
ああ、おやびんが。
おやびんが俺に縋りつくようにして、笑いかけてきてくれたらどんなにいいだろう。
そういうことがなかなかないのがおやびんらしいんだと解っちゃいるが。
ああくそ、こんな気分になるのもやっぱりあのところてんのせいだ。
あの野郎ふと見ればガキ相手にいちゃつきやがって、見てるこっちが恥ずかしくなる。
だが俺もおやびんにそういうことを期待してないわけじゃない。

ああ、すみません、おやびん…
あなたを攫いに行けない俺を許してください。





天の助、楽しそうだな。
いや楽しいんだろうか、殴るは殴られるは蹴られるは蹴り返すは。
でもずっとそれを続けて飽きないんだからきっと楽しいんだろう。
横にいる首領パッチも同じ、なのだろうか。
俺には解らない。
解ったとしたら。
解るのなら、こんな風に見ているだけではいないのだろうか。
そんな俺ってどんなだよ。
想像もつかいないけど、俺がハジケリストなんて言葉にはほど遠いって知ってるけど。
例えば天の助も、俺はもう少しハジケてた方がいいって思うだろうか。
今首領パッチといて、あんなに楽しそうなんだから。
でも俺にボーボボさんや首領パッチみたいに振る舞えるのかっていうと、考えられもしない。
首領パッチと同じ様に、なんて出来るわけがない。
そんな風にしたそれはもう俺じゃないんだろうけど、でも、だったら。

ああ。
天の助のことが、時々わからない。
こういうのを掴みどころがない、っていうのか、違う気もするけど。
別につるつるしてるからとか、そういうのじゃなくて。
俺の側に来たと思ったらもう離れていて、かと思ったら更に遠くにいて。
その動き方はボーボボさんや首領パッチとも少し、違う。
例えばもっと勢いよくひとつの場所を目指すようになってくれたら。
それが、俺のところであったら。
ああ、そして首領パッチが破天荒を引きずるくらい、強引に。
俺のことを連れ回してくれるなら。
きっと疲れるだろうけど、想像がつかないけど、楽しい、かもしれない。

天の助と最後に話したのは、どのぐらい前だったろう。
ついさっきと言えばそうだけれど、今だってこんなに近くにいるのに。






妙な生き物二名を眺めている男二人を、眺めている大きな男と少女。
男は腕を組み、微かに首を傾げて呟いた。

「ああいうのを、ないものねだりと言うんだろうか」
「え?」
「どっちもどっちとも言うな」
「ボーボボ、意味わかんないよー」



ないものねだりと言うけれど、
例えば二人の男は自らの相手が望み通りになれば、喜んでばかりはいられずにどうしたのかと騒ぐだろう。
彼らにとってのこうであればという思いは、そうでないから抱かれるもの。
そうでなかろうが愛しいから、抱かれるもの。



「わーん、ヘッポコ丸ゥ。首領パッチが俺のことゼリー扱いするよー」
「ホントだもん!ゴエモンがちょっとゼリー入ってるって言ってたもん!」

「わ、お、落ち着けって。誰だよ、ゴエモン…ああ、泣くなってば!」

「いいえ、おやびんは正しいんですよ。悪いのは自分の本質を見抜けないところてん、いやゼリーですから。ね」

「うるせーぞデコッパチ!俺は純ところてんだ、食してみるかッ!」
「食あたり起こす気はねぇぞ」
「…わーん!あんなこと言ってる!」
「だから泣くなってば」
「べー」
「首領パッチ、お前も煽るなってば…」
「…だって!へっくん、アタシにはつれないクセに天子には優しいじゃん!」
「いやいや、お前につれないって…」
「何コラ、ガキ!テメーおやびんの何だ!」
「何ってお前、何聞いてた!」
「男の嫉妬は見苦しいぞー、デコパッチ」
「デ、デコパッチ?」
「もーお前首領パッチ首領パッチうるせーからデコパッチに改名だ」
「天の助、だから煽るなって!」
「………デコパッチ……」
「うわ、嬉しそうだ!」
「ところで首領パッチどこ?」
「ん、そういえばいないな…あれ?」
「お、いた。あっち」
「あっち?……………あああ!テメェ、ボーボボ!」



今日も皆、普段通りに幸せ、だ。












ないものねだりしてみても、今が幸せ、に落ち着く結論。
そうでないこともひっくるめて好きなんだけど、甘えてほしいなーと思ってるらしい二人。
かと思ってたらちょっとだけ甘えてきたりして…
そこから少しすれば、それも忘れてしまうくらい騒がしい日常。


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