冬将軍



「雪だなぁ」
「きっと積もりますね。まだそんなじゃないですけど」
「積もったら雪だるまつくろーぜ」
「はい」
「でけぇのな」
「はい」

ハジケ組全員で作れば、それはユニークでそれは巨大な雪像が出来上がるだろう。
完成予想図は必要ではない。
ただ、作るのだと笑い合って、それが他の皆に伝わって、あとは流れに任せて、それで良いのだ。

「雪だるまや雪合戦に向いた雪だといいですね」
「ん?お前、雪合戦もやりたいか?」
「おやびん、好きでしょう。雪合戦」
「まーな」



雪がちらちらと舞い踊る窓の外は、幾らか霞んでいる。
部屋の中とはまるで異なった空間のようだった。


「白いなぁ」
「明日には真っ白になるって、天気予報で」
「そーか。あーでも止むかなー」

地に積もった雪は、踊りはしない。
重力やら生き物の動きによって落ちては舞い上がり、あとは地面で溶けるのをただ待ち続ける。

「降ってるのとやんだ後じゃ、また違うよなぁ」
「暖かくして行きましょうね」
「俺は風邪ひかねぇよ」
「ひかないとは限りません」

譲らない男は、首のマフラーを小さく揺らした。

「お前のマフラー、あったかそうな」
「ああ、まあ…その、当たり前になっていてあまり感覚はないんですけど」
「でもそんだけじゃダメだな。あったかくして行くぞ」

小さな反撃に、男は微かに笑った。

「俺も、連れていってくれますか」



まるで二人の間にも、雪が舞い降っているかのような。



「連れていかねぇと思ってたか?」
「…おやびんはお優しいですけれど、駄目だと言うなら首を振るわけにいきません」
「行きたくねぇの?」

男は己の脇腹の辺りのマフラーの先に小さく触れて、窓の外を見た。

「俺はおやびんのところへ冬を連れてくるかもしれませんよ」
「冬?」
「寒くて冷たい、凍える冬。震える冬です。眠れる、冬です」
「ふぅん。難しいな」
「おやびんには、似合いません」

窓の外では、先程よりも激しく弾け合う様に雪が降っていた。

「ていうかもう冬だろ」
「でも、この冬はいつか明けます」

「冬か」

「はい」


部屋の中には二人の声と、暖房器具の風の音。
熱というほどのものを与えてくれはしない。
渇いた温もり。



「冬つったらクリスマスだな」
「…クリスマス、ですか?」
「クリスマスで、チキンで、ケーキで、年越し蕎麦で、正月で、おせちで、雑煮で、お年玉で、雪合戦で、雪だるまで、ええとそれから」
「……」
「お前はなんか、あるか?」
「…いえ」
「なんだよ。冬を連れてくるのに?」

男は力なく首を振って、困った様に笑った。

「冬は嫌いか?」
「おやびんが、嫌いなら」
「お前はどうなんだよ」
「…好きでも嫌いでもありません」

雪はいよいよ激しくなってきたが、二人にそれは見えてはいなかった。

「まあ、無理に好きになんなくてもいいけどな。チキンとケーキ食ってプレゼント交換して、紅白見て蕎麦食って、おせちと雑煮食って羽根つきして、雪合戦して雪だるまするの俺は好きだからやるぞ」
「…おやびんがするなら、俺もしたいです」
「おう。でも、楽しくないなら無理すんなよ?」
「おやびんがいれば何だって楽しいですよ」

男の笑顔は、その言葉とともに幾らか柔らかくなった。


「じゃ、やろうぜ。春なら花見、夏ならスイカ割り、秋なら月見」
「…おやびん、俺、夏には」
「ん…あ、あ。そーか、産卵の季節だっけお前」
「……はい。すみません」
「謝んな。元気な卵産めよ」
「…は、い」
「そしたら、戻ってこい。未だ夏が終わってなきゃかき氷食おうぜ」
「…はい」
「俺は」

雪と部屋を隔てる窓ガラスを小さな指でこつんとひとつ、弾く。


「冬は、好きだ」

「…俺も」


暖房に乾いた部屋の中で、
冬を連れてやってくる冬将軍は、


「…俺も、です」


溶けてしまうことはなく、瞳を少しだけ熱く潤ませた。





「クリスマスプレゼントは、何がいいですか」
「プレゼントは交換すんだから、俺に来るとは限らねぇぞ」
「でも、おやびんの欲しいものを用意します。プレゼント交換用のもそうしますから」
「…んー」
「…だから、俺のを当ててくれると嬉しいです」
「…おっしゃ」


その声を聞くと冬将軍は、


「俺も頑張って、おやびんのを手に入れますから」




笑った。












マフラーのせいか服の色のせいか表情のせいか、私の破天荒のイメージ、冬。
冬を連れてくる男。ていうかこれ、出した時何月だと思ってるんだ!七月だ!……
破天荒にとっては夏も冬もどうってことないのですが、おやびんに会って初めて心配になった、という。
自分が彼の輝きの中に凍りつく冬を連れて来てしまわないだろうか。
でも彼自身はその冬を、実はそんなに嫌いじゃない。…みたいな…

text