『ふ…ざ……け………』


「すぎィーーーッ!!」



吠えるような轟音、そして激しく空を斬る勢いで
魚雷ガールの登場です!



「そう、OVERお姉様はその怒りが頂点に達するともうひとつの体…魚雷ガールに姿を変えてしまう…!」
「なんだって!?」
深刻そうに呻くシンデレラ、驚愕のボーボボ。
ダン、と音を立て、魚雷ガールが着地しました。
「ふざけてる奴はいないでしょうね!?」
全員、必死で首を振ります。
無理もありません。魚雷ガールはその手に四本の縄を握っています。そこには天の助、ヘッポコ丸、首領パッチ、破天荒(追いかけた順)が簀巻きにされて縛られて間近に天国を見ていそうな表情。
誰が彼、いや彼女のスイッチを押したのか。犯人は天の助だ。100%そうだ。
「なにこの展開!?」
ビュティ絶叫。
あの変な五人組はいつの間にか消えていました。どこかへ避難したようです。
「ふざけてるのはアナタ!?それともアナタ!」
立腹の魚雷ガールはボーボボに問い、軍艦に問います。
「お姉様、私よ!シンデレラよ!」
シンデレラ軍艦は叫びました。
「甘いわ…妹とはいえ、おふざけは許さない」
しかし魚雷ガールお姉様は厳しい。姿は違えど、OVERお姉様だということでしょうか。
「何故なら私は魚雷だからッ!」
でも魚雷だそうです。
それはともかく、状況は果てしなく悪い。既に側近四名が泡を吹いています。
最初の展開をすっかり忘れたシンデレラと王子は、並んで構えました。
「この状況…どうする…!」
王子はビュティを自分の後ろへやり、必死で考えました。
この状況を打破する方法を。


だが、救世主は意外な所から現れた!


「これは…ずいぶん派手にやっているな」
驚きの声とともに、一人の男が舞い降りました。
全員が斜め上のその場所、そう、最初にシンデレラが突入してきて開いた穴に注目します。
そこにいたのは魔法使いソフトンでした。
「まあ、魔法使いさん!何故ここに!?」
「シンデレラか。いや、そろそろ決着する頃かと思ってな」
シンデレラ達の様子が気になったソフトンは、城まで見に来たのでした。
辺りを見回し、お茶漬け星人と御者にした田楽マンが二人大貧民に興じているのを確認すると、ソフトンは腕を組みました。
「邪魔をしたか」
「…いや」
王子が何かを言おうとしたその時。
「…す…ステキな方」
ぽつり。
その一言に、全員がそちらを向きました。
「あ、あの!あなたお名前は!?」
「…俺はソフトンだが」
声の主は他でもない、魚雷ガールでした。
ソフトンはどうしたことかと首を傾げ、状況を察した三人はごくりと唾を飲みます。
「わ、私魚雷ガールと申します、ソフトン様!はじめまして…!」
「あ、ああ。はじめまして」
「せっかくのパーティーです、何かお話でも…あっ、ここは散らかってますわね!涼しい外にでも出ませんこと」
「いや、俺は」
「私、何か飲み物取って参りますわ!」
ソフトンは暫し黙って考えましたが、息をつきました。
「…まあ、それもいいかもしれない。だが飲み物は俺が取ろう、それが礼儀だ」
「お優しいんですね、ソフトン様…じゃあ、一緒に参りましょう」
「ああ。…そうだ、田楽マン」


「チキショー、そこでジョーカーに2かよ!」
「チャッチャッチャ…また俺の勝ちのようだな」


「…まあ、まだいいか」
「さっ、ソフトン様!」

二人は連れ立って、辛うじて無事なテーブルへと向かいます。
パーティ会場に集った猛者どもはもう殆ど立っていません。まさに地獄。

「…」
「……」
「………」
残された三人、王子とシンデレラとビュティは沈黙しました。
「…お妃様探し、駄目になっちゃいそうだね」
「…ああ」
「…そうかもな」
考えてみれば最初から皆それ目当てに集まったのではないから、上手くいく方が不思議だったかもしれません。
「……」
「元気をだせ、ビュティ。俺はもともと結婚する気なんてない」
「…でも」
「それより、俺は旅に出たい」
「たび…?」
「そうだな、そこでのびてるあいつら…と、ビュティ。お前も一緒に」
「…旅」
「どうだ?」
「…うん。楽しいかもね」
二人はちょうど互いの身長の真ん中あたりで視線を合わせて、ふ、と笑いました。
気を失っていたヘッポコ丸達も、そろそろ目を覚ます頃でしょう。

「…やれやれ」
すっかり置いてきぼりのシンデレラは、肩を竦めました。
汗をかいた頬を拭おうとすると、前腕に薄ら滲む血が目に入ります。どうやらこの騒ぎの中、切り傷を作ってしまったようです。
シンデレラは思わず傷のできた場所を押さえました。
「…あの」
透き徹った声が響きます。
小さな痛みに顔をしかめながらそちらを向くと、金髪の少女が立っていました。
「お怪我ですか」
「ああ。古傷がな」
「古傷…大変、痕が広がります」
「いや。いま怪我した」
いまいち繋がらないことを言いながら、シンデレラこと軍艦は少女と向き合います。
「でも血が…洗いに行きましょう。今はとりあえず、ハンカチを」
「いいのか?汚れるぞ」
「かまいません」
シンデレラは優しい人です。道で転んだ少年を立たせて勇気づけてやることがあれば、使いの品を失くしてしまった少女を手伝ってやることもある。
けれど、優しくされることには照れくささを感じるのでした。
「……」
「いいんです。私、あなたに助けてもらいました」
「なに?」
「お忘れかもしれませんが、あなたに探し物を手伝ってもらったのは私です」
「……ああ」
そう言われると、何度も自分に礼を言う少女の姿が蘇ってくるようでした。
「…名前は?」
「スズです」
頬を掻きながら問うと少女は笑顔で答え、そして問い返しました。
「あなたは?」
「シンデ…いや」
薄くも笑顔を返し、自分の名をその口に。
「軍艦だ」



シンデレラの突っ込んできた穴から見える空には、満点の星が出ています。
シンデレラの魔法は解けません。魔法使いはうっかり、時間を制限するのを忘れてしまったのです。
けれどもシンデレラはそのリーゼントを少しだけ早く復活させてもらいここまで送ってもらった他は、きちんとその力で戦いました。



ボーボボ王子とビュティは手分けして仲間達を起こしています。
明日の朝にでも家出、いいえ旅立ちをするための話し合いを始めるようです。
その横ではお茶漬け星人との戦いを十八連敗で終えた田楽マンが慌てています。
「しまったのらー!ソフトンに置いてかれたのら!」
「ソフトンさんなら、外にいるよ」
ビュティが声をかけて教えてあげました。
「戻ってくるまで私達と一緒にいる?」
「なんなら、あの魔法使い達も誘うか」
ボーボボがのんびりと言いました。
「お前も来るか?」
そう言われた田楽マンが嬉しそうに頷く横で、すっかり無傷に戻った天の助がヘッポコ丸の怪我を心配し、破天荒が自分の傷そっちのけでやはり無傷の首領パッチを心配しています。
彼らがともに旅をすれば、きっとさぞかし賑やかな一行になることでしょう。
そんなことは本人達が誰よりよく解っているのでしょうけれど。



どうにか避難して無事でいた例の変な五人組は、輪になって溜息をついています。
「OVER様、まだかなあ」
「どこまで行ったんだろうな」
「ま、気長に待とうや。ババ抜きでもしてさー」
「お前達、静かにろ。ルビーが寝てるんだから」
実はシンデレラの家のお姉様達は近々独立する予定で、彼らはそこでOVERの部下になる予定の者達でした。
蹴人、黄河、メソポタミア、インダス、ルビー。お互いをそう呼び合う仲の良い五人は、一緒になっていつまででもOVERを待つつもりです。



「ソフトン様、見て。星が綺麗」
「…ああ」
「ソフトン様は魔法で空を飛べるから、きっともっと近くでご覧になってるんでしょうね」
「あなたも飛べるだろう」
「でも私はいつまでも近くで眺めていることはできませんわ。魚雷だから…ふふ」
「…嬉しそうだな、魚雷殿」
「ええ。楽しいですもの、空が遠くたって…ソフトン様が……やだ、恥ずかし魚雷!」
「……いつか、星を」
「…ソフトン様?」
「…いや。なんでもない」

そうゆったりと会話する二人が立つテラスは、中の騒ぎなど嘘のように平和です。
残念ながら彼ら二人きりではありませんでしたが。

「…ギガ様、星はご覧にならないのですね」
「文句あるか?」
「いいえ。私もあれよりもっと美しいものを知っています」
「俺も知ってるぜ。俺の芸術だ」
「はい、ギガ様の芸術は…」
「嘘つけ、ハレクラニ。お前には金の方が美しい」
「…ええ、何より。私の命です」
「そうだな。俺はそれを知ってる」
「…はい、ギガ様」
「自分とこの連中を放っといていいのか?」
「今はギガ様のために…そちらは」
「…どうでもいい」
「…はい」
「咎めないな」
「ギガ様がおっしゃるなら」
若きシンデレラの母親、ハレクラニ。そしてギガという男。彼らもまたこの星空の下、しかし星を見ずにそこに在りました。中での騒ぎなど彼らにはあってないようなものです。
彼らもまたすっかり二人きりのつもりではいますが、実は双方の部下連中合計十名以上が柱の影から自分たちを見ているのも知っていました。




そのころ城の中の一室、スズが軍艦の手当を終え、片付けをしています。
「お連れの方、先にお返ししてよかったんですか?」
「邪魔をしたくないから帰ると言われて、止めるわけにもいくまい。…が、何が邪魔だというんだろうな、お茶漬け星人のやつ」
「…あの、軍艦様」
「軍艦でいい」
「いいえ、軍艦様。お怪我もされてますしこの時間ですから、今日は城にお泊まりになっては?」
「突然、無理だろう」
「大丈夫、のはずです…軍艦様。痛みませんか…?」
「ああ、こうして手当もしてもらったからな。だがハンカチが…」
「…ちっとも惜しくありません。それに、洗えばいいんです」
「そうか。優しいな、スズ」
「いいえ。…あなたもお優しいです」
素直に笑うのは得手ではない二人ですが、互いに笑顔を交わし合いました。




夜はこれから深まり、そして明日の朝が来る。
お妃を決めるためのパーティーは台無しになってしまいましたが、誰かにとって大切なものを見付ける、誰かにとって大切なものとの時間を過ごす、そんな夜にはなったようです。


ああ、私ですか。
私もまた、この静かな夜の住人です。
騒ぎに多少は巻き込まれましたが、あの家を出て独立をする日も近いことですし、母と姉と妹のために祝福の花火をあげましょう。
誰にとっても騒がしく、少しだけ優しい夜ですからね。
ではラムネさん、禁煙さん、いきますよ。





END




劇団ボボボーボ・ボーボボと愉快なその他どもによる公演を、これにて閉幕いたします。
長文ご清聴有り難うございました。



CAST
シンデレラ…軍艦
父…ボボボーボ・ボーボボ(一人目)
母…ボボボーボ・ボーボボ(二人目)
王子…ボボボーボ・ボーボボ(三人目)
王子の側近…ビュティ、首領パッチ、破天荒、ヘッポコ丸、天の助
魔法使い…ソフトン
ねずみ(馬)…お茶漬け星人
御者…田楽マン
馬車…インパクト大のあの車
継母…ハレクラニ
姉その1…OVER(魚雷ガール)
姉その2…プルプー
ナレーター…プルプー


スズ 必殺五忍衆のみなさん 一応いたヘル・キラーズのみなさんとカネマール
ギガ やっぱり一応いた電脳六闘騎士の皆さん ラムネ 禁煙 役だけツルリーナ四世
コンバット・ブルース(怪しい軍人) バビロン神(魔法協力)
ハジケ組の皆さん(楽団) ライス(楽団指揮者)


脚本演出監督 サービスマン
他スタッフ ボボボーボ・ボーボボの世界を彩る愉快な仲間達



thank you!












…すみません。
どこから言い訳しようかすら思いつきませんでした…
とりあえず、配役を発表しておいて都合により変えてしまうのは『 Dr.ス○ンプ』初期によくあった童話パロディでのネタです。
最初の配役でやる予定だったのですが、何を間違ったかこんなことになってしまいました。
読んでくださった方、本当にありがとうございます!ありがとう!ありがとう…!

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