優勝すればどんな願いでもひとつだけ叶えよう。
そう書かれた招待状が届いたのは、ボーボボ一行のみではなかった。
マルハーゲ四天王、軍艦、OVER、ハレクラニ。
謎の助っ人たるサービスマン。ボーボボと田楽マンの融合である田ボも戦いに繰り出した。
そして。
謎の主催者の用意した招待状は、実はこんな場所にも届いていたかもしれない。
「プルプー様。こんなものが届きました」
忠実な部下として恐らく模範的な態度で、ラムネは己の主に一枚の葉書を差し出した。
「大変失礼ながら私宛てであることを期待して内容を見てしまいましたが…違いました…」
やっていることは模範的でもなかった。
だが落ち込む彼女が何を期待していたか解らないでもないので、プルプーは追求せずにそれを受け取った。
大人の事情で煙○の箱からバージョンチェンジしたチョコチョコっともそれを見守っている。
「ふむ…なるほど。優勝すると何でも願いを叶えてくれる武道大会ですか」
「はい。プルプー様、当然」
自力で立ち直ったラムネがその先の言葉を続けようとした、それを遮るように。
プルプーが一言はっきりと告げた。「捨てなさい」
「な…なぜです、プルプー様!」
チョコチョコっとも納得いかないと、そう主張している。
だがプルプーはふうと溜息をついて、葉書を指差した。
「いいですか、まず何を願うか。それをはっきりさせるほど出番を頂いていない」
「プ、プルプー様…それを御自分で」
「いいえ、言わなくてはなりません。うっかり四つほど球を抱えて出場することもままならない、願い事を考えようものならば不老ふ…」
「プルプー様、ストップ!」
ラムネが叫んだ。
が、プルプーは別の言葉を続ける。
「そして奥義には三段階変し…」
「ス、ストップストップ!」
「…とにかく、やられた後に父親を連れて再登場だとかアニメオリジナル要素で地獄で暴れてみるとかそういう状況になってはならないわけです」
「な…なりますかね…?」
既に三人とも息切れしている。
小道具がカットされ、カラーリングが変更され、○草がチョコレートになり、その他いろいろを受け止めてきた彼らは再びその葉書を真剣に見つめた。
「プルプー様…おそれながら今の私達の会話もいろいろギリギリかと」
「映ってないから構いません。…この葉書は封印するなり燃やすなり」
「…はい。仕方ないでしょう」
話はまとまった。
チョコチョコっとが頷いて横から葉書を取り、四つに折り畳む。
そして。
「…しかし、他の四天王達の戦いぶりは気になりますね。観戦にでも行きますか」
「ああ、ちょうど良かった。実は私にゲストで来てほしいらしい参加者がいて、ひょっとするとあの方に会えるとか会えないとかでもあの人の手紙には」
「ラ、ラムネさん…クールダウン、クールダウン」
こうして彼らは、ハジケ大戦と呼ばれるこの戦いの一部にのみ出かけていくことになった。
彼らの姿はある男とある犬の戦いにて確認していただいきたい。
同日別の場所、サイバー都市にて。
「おい、聞いたか」
「何を?お前の部下がチョコチップクッキー落として割ってショックで落ちるどころか空飛んだ話かい?」
「バカ、そっちじゃない!ギガ様に届いた招待状の話だ!」
電脳六闘騎士、パナとソニック。繋げて呼ぶと、いやそれは置いておくとしてこの都市に君臨する帝王ギガ直属の部下、幹部の二人である。
「招待状?どんな」
「武道大会だ。なんでも優勝すると好きに願いを叶えてくれるんだとよ」
「それは夢のような話だな。…嫌がらせじゃないか」
「かもな。速達葉書だったし…」
「ハガキ!?なんでそんなに詳しいんだ?」
「いや、クルマンのヤツがもってきたのを見てな」
「ふーん、それでギガ様のところにはクルマンが?」
「それでモメてな。その場にいた奴でジャンケンして詩人と龍牙…どうしてお前いなかったんだ、パナ」
「そりゃもちろん、こうして回っていたからさ」
実は現在、パナは頭の車輪の方を地面に付けているのだった。
バンジー紐を外したソニックは、そのままだと足としか視線が合わないのでしゃがんで喋っている。
「Jもいなかっただろ?」
「Jは仕方ないだろう、別の仕事があるんだから」
Jは都市全体のエネルギーを司る男だ。うっかりその場から離れて怪しい葉書一枚をネタにジャンケンしている暇はない。
とりあえずこの件にあまり関わりのなくなったパナとソニックは、ギガが聞いていないのをいいことに葉書の差出人は昔の恋人だとか不幸の手紙だとか好き勝手語り合った。
「というわけで…それがこの葉書です」
その頃総長詩人と王龍牙は、そんな話は欠片もできない位置にいた。つまりはギガの目の前である。
ギガがこのふざけた『招待状』にどんなリアクションを返すかは誰にも予想できないので、黙って立っているだけでも緊張感は消えない。
なぜ二人がここにいるかといえばソニックとクルマンとのジャンケンに負けたからだった。詩人は内心、Jはともかくパナには後で文句のひとつでも言ってやろうと勝手に決意していた。
「へー」
ギガのリアクションは、薄い。
運が良かった。彼の機嫌が悪ければ酷いことになっていたかも知れない。
だがここに立った以上、もうひとつ問わねばならないことがあった。詩人は先程からずっと黙っている龍牙を睨みつけたかったが、ギガの前ではそれもままならない。
仕方ないので再び口を開く。
「…それで、ギガ様、出場されるので…?」
「は?」
決して暖かくない返事がひとつ。
だから嫌だったんだと、詩人は心で泣いた。
が。
「出たけりゃテメーらの中から誰か行ってくればいいんじゃねーの」
ギガは本気でどうでもいいらしく、別に苛ついている様子もない。「…だって」
とりあえず、詩人は隣の龍牙に視線をやった。龍牙は肩を竦めて返す。
これはギガの冗談だ。処刑他様々な仕事がある六闘騎士にも、怪しいイベントに出場している暇はない、例えこの大会とやらが真実であろうと嘘であろうとだ。
「…処刑場がつまってますから。集団脱走があって」
「…真拳使いの道場を調べさせてる結果がもうすぐ出るんで」
ギガも解りきっているであろう『理由』をそれぞれ口にする。と、ギガはケッと笑って指先につまんだ葉書を軽く振る。
すると葉書は一瞬で紙の鶴になり、そのまま固まった。
見慣れぬものなら目を見開くであろう技だ。
その瞬間。「…ああ、でも」
ぽつり。
口を滑らせたのは、龍牙だった。
「…あ?」
「あ、いえ。なんでもね」
「なんだ」
「なんでも…」
「言えよ」
ギガが笑みを浮かべつつ問うのに、龍牙は震えた。
今度は詩人が黙ったままだ。暫し、沈黙する。
そして。
「……なんでも、ハレクラニのヤツが出かけてったらしいですけど」
「あァ?」
ギガから返ってきた声には、多少の棘があった。
龍牙は居心地悪そうに口を開く。
「ハレルヤランドを監視させてる連中の報告で、ハレクラニのところにも招待状が」
「…で?あの金ヅルくん、お願い事しに出かけて行きやがったってワケか?」
「…誰も連れずに?」
控えめに詩人が問う。
それで少しはギガと一対一の状況から解放された龍牙は、肩の力をやや抜いて頷いた。
「いや、でも……ギガ様?」
続けようとして。
龍牙は固まった。詩人も、同様に固まった。
ギガの表情に新たな感情が薄らと生まれでている。不機嫌だ。
詩人は本気で一瞬怯んだ。が、龍牙の言葉にはまだ続きがあるようだ。
ギガの不機嫌を察した様子で、複雑そうな表情を隠しながら続ける。
「…ハレクラニの野郎はなんでも、大会をブチ壊しに行ったらしいです」
「ブチ壊す?」
呟きが返る。
龍牙とて、その報告を受けた時は耳を疑った。
が、よくよく聞けばそこには解らないでもない事情があるようだ。
「売り上げがどうのとか…」
「…ああ」
ふ、と。
ギガの表情から、何かが抜けた。
「フン、成金ちゃんらしいじゃねーか。成る程ね」
「ええ、まあ」
ギガが笑う。龍牙が返す。
詩人はその横で、話の流れを掴もうとどうにか考えた。
ハレクラニが売り上げのために大会をブチ壊しにいく。
あの怪しい大会はハレルヤランドに何らかの影響を与えているのだろうか。
そして直々にそれを潰しに行くと。
この場にいる己以外の二人はすっかり納得してしまったらしいが、詩人にはいまいち理解できなかった。
そもそもハレクラニのこともよくは解らない。
マルハーゲ四天王最強と呼ばれる男で、ギガに金づる扱いされていて、担当は龍牙に任されている。
ギガを見ると幾らか満足そうに笑っていて、紙の鶴は彼の足下に横たわっている。
どうやらこの仕事はこれでお終いのようだった。
「…どうも解らないよ」
「あん?何がだよ、総長様」
「ギガ様はやけにあっさり納得したね」
通路を腕組みしながら歩く詩人に、龍牙が小さく息をついて答えた。
「ハレクラニはの野郎はな、願い事なんてモンがあったら金と力で解決するのさ」
「まあ、成金って呼ばれてるぐらいだしね」
「全ては金に始まり金に終わる、世の中はそういうもんだっていう男だ」
「へえ」
頷くと、龍牙は視線の方向を変えて呟く。
「…ギガ様は、ヤツのそういう在り方を一種の芸術だと思ってんだよ」
え、と詩人が声をあげるかあげないかの内に、彼は言葉を終わらせてしまった。
黙したまま早足で遠ざかって行く。
詩人は黙ってその背中を見ていたが、暫しして再び腕を組んだ。
帝王ギガは芸術家でもあり、その心は詩人の理解できるところばかりではない。むしろ全てを理解しているなどと口が裂けても言えない、畏れ多い。
そしてハレクラニという男も解らない。詩人も、金というものにそこまで執着したことがない。
そして今、下手をすると同僚のことまで解らなくなりそうだ。龍牙は、詩人の言葉でも簡単には説明できそうにない、本気で複雑そうな表情を浮かべていた。
総長として不甲斐ないことであろうか。
Jならば理解できるのかもしれないと、別の頼もしい同僚の顔を思い浮かべた己を内心笑いながら、詩人は小さく肩を竦めた。
結局のところ、帝国の関係者は大会には現れなかった。
そして、招待状とは関係ないとある場所でも大会に関わる物語が進行していた。
幾枚かの写真を片手に、男は仲間達を見回した。
彼の名はハンペン。
加工食品でありながら食物連鎖の頂点を自負し、それに偽りのない実力を持った猛者である。
「ふむ…まず宇治金TOKIO、この写真だとお前が目立ってないようだが」
「そうでっか?」
語りかけられたかき氷は、のんびりとそちらを見た。
「まあ、要塞がそう目立つわけにもいかんってことですわ。ワイも目立ちたいっちゃ目立ちたいがチスイスイはんとスターセイバーはんの格好良さに免じてな」
「要塞か…」
「それはそれで美味しい位置でっせ」
この写真で彼がリーダーだと解るかどうか不安ではあったが、確かに中心といえば中心で彼自身も納得している。チームワークという点では三狩リアでは一、二を争うといっても過言ではない彼らのことだ。
ハンペンは黙って頷いた。
「ジェダ。お前達のところは枠で分けてしまったようだが」
「うちはいいんだよ、それで」
宇治金TOKIOとは雰囲気が違うが、風神のジェダ、彼ものんびりとしたものだ。
彼らのグループはジェダ以外の二名が先行するという戦い方をとっているが、だからといってチームワークが無いとは言い切れない。
二人の部下はジェダを尊敬している。ジェダとて、三狩リアで二人を先行させて失敗しようものならそれは自分の失敗にもなると理解しているはずだ。彼らの間にはそれなりの信頼が存在している。
三人の良い表情と良い雰囲気を認めてハンペンは頷いた。
「で、これは…ずいぶん賑やかだのう」
ハンペンが取り出した別の一枚には、他の写真とは違い五人もの戦士が写っている。
だがその中の一人であるランバダはむっつりと黙り、別の一人であるレムは会議スタートの時点から眠りの世界にいて未だ抜けていない。
「ランバダ」
ハンペンの指名に、ランバダは面倒そうに答えた。
「そいつに文句があるか?ハンペン」
「いや。インパクトはある」
写真の内容は好きに決めて構わないということになっていたが、悪くない写真だ。カンチョーくんまで上手に写っているが、それにしても。
「浪漫貴公の頭は無事か?刺さってるが」
「幻獣バカか?あいつなら頭からだくだく出血しながら元気そうにしてたぜ」
「誰だ、この構図を決めたのは」
「さあな。とりあえずちまいのを幻獣バカの頭に放ったのは泡野郎だ」
泡野郎というのは泡玉のルブバ、そして幻獣バカが浪漫貴公だ。浪漫貴公が本当はイシカワ・ゴエモンであることなど皆知っているのだが、ハンペンは一応浪漫貴公と呼んでやっている。
しかし彼と同じグループのレムとルブバは揃ってゴエモンと呼ぶもので大した意味もない。だが彼らは、レムの戦い方が決して三人での協力には向いていないことを考慮した特別編成のチームなのだ。
『泡野郎』も『幻獣バカ』もその名の通りの真拳の使い手である。
「問題はなかろう」
ハンペンはその写真も机の上に戻した。
そして。
「問題はこの一枚だ…コンバット・ブルース」
「ん?」
問題の男は会議そっちのけで本を開いていた。
ちなみに文学だの研究書だの立派なものなどではない。
「会議中にエロ本を開くでない、馬鹿者!」
「いや、これは写真集で…ぶっ」
ハンペンの投げたペンが彼の手にある本に刺さり、そのまま吹っ飛ばした。
「真面目にやらんか。この写真の話だ」
「問題あるか?」
「…もーちょっとなんとかならんか、正直」
他のチームは得意のフィールドに行くなり特別な衣装を着るなり何なり、格好を付けてきた。
が、彼のグループは冗談抜きで普段通りの写真を提出してきたのだ。
「そんなこと言ったってなぁ、これは私とギャルとガールで考えた結果の…」
「…だろうな」
W三狩リアならぬW膝枕。されている方もしている方も本気なのでどうしようもない。背景はハートマークである。
「いいんじゃないの?」
ジェダは肩を竦めた。
「そうやなあ、幸せそうで結構や。羨ましい」
宇治金TOKIOも頷く。
ランバダはただじっとハンペンを見たままで、レムはやはり眠っていた。
「ふう。仕方ないのう……ところで」
結局問題の写真も許可してしまったハンペンは、ぽつりと呟いた。
「菊之丞はどうした?」
「……」
「……」
「……」
一同、沈黙。
確かにこの旧毛狩り隊最高幹部特別会議、薔薇百合菊之丞のみが不在である。レムのように眠っているが参加はしているというわけでもない。
「菊之丞ならスネたぞ」
会議前に彼の姿を見たらしいコンバットが何かあっさりと答えた。
ジェダがそんな彼に溜息をついて、後に続ける。
「撮影をボーボボ一味と戦った三狩リアのチームごとにやっただろう」
「ああ」
「悲しいことに、あいつは三狩リアでは戦ってないわけだ…」
最初に百年の眠りから覚め先行した菊之丞は、ボーボボ一行ほぼ全員を相手に健闘した。
健闘したが三狩リア作戦には参加出来なかったのだ。悲しいことに。
「…それは、予想外の展開だったのう」
「…そんなことでか?俺はむしろ写りたくなかった」
ハンペンの言葉に、ランバダがぼやく。
「そう言うな、ランバダ。よく写っておるではないか」
「…そうか?」
ランバダはまんざらでもないようだった。
「そう言えばランバダはん、ミニゲームの方にも出演するっちゅう話やないか」
宇治金TOKIOの言葉に、全員が注目する。
「聞いてないぞ」
ランバダが不機嫌そうに呟いた。
「へ?だってホラ…ここや、ここ」
宇治金TOKIOはどこからか『ポケットゲームリスト』と書かれたパンフレットを取り出すと、机の上に置いた。
皆が立ち上がりそれを覗き込む。レムはやはり眠ったままだ。
「…ぬ、献上ゲーム?」
読み上げてしまったのは他でもない、ランバダ自身だった。
「…………」
一同、沈黙。
「…お…れがなんでこんな……クソがアアァ!!」
そして、ランバダキレる。
「うわあ、落ち着いてランバダはん!…ぶっ!」
「うーん……」
「ランバダは知らなかったんだねえ、このゲーム…悲劇だ」
「うーん………」
「冷静にならんか!」
「うー…あ、思い出した!こいつ溶けてたヤツだな」
「知るかアァーッ!」
会議室内は数分間惨事となったが、ハンペンがどうにかランバダを取り押さえる形で落ち着いた。
「くっ…!もの凄い屈辱だ…!」
「うーむ、このところてん…決してこいつに負けたとは思わんが、あの偽平和主義者のパーツ…わしと似た生き様を辿りながら解り合うことはなかった、愚か者よ」
「ハンマーの一部じゃなかったか?」
「だから溶けてたヤツだろう」
「いやー、こいつはバスやバス」
荒れた会議室の中で語り合う五人の男達。
しかし、彼らは大切なことを忘れていた。
ひとときの平和に気を抜きすぎたのだ。
「…さい…」
ぽつり。
響いた、響いてしまったその声に、皆そちらを向く。
「…うるさい」
「…あ」
「レム…」
ランバダの大暴走は、新たなる惨事どころか大惨事を
「…煩いのは!どこのどいつだーッ!!」
引き起こしてしまった。
眠れる戦士、覚醒。
会議室は修羅場と化した。
その部屋からそう遠くはないある場所で、ひとりの男が溜息をついた。
確かに登場しそびれた。
出番の無かった者達のカードにも写らなかった。
だが聞こえてくる爆音轟音恐らく阿鼻叫喚の光景(見えないのでどれだけのことになっているかは解らなかった)を思うと、後悔するようなことでもないだろう。
大会という名の事件は外で起こっているが、会議室でも起こっている。
砂漠に咲く一輪の花にされた薔薇百合菊之丞は、猛者達の集い戦うフィールドに人喰い花でも咲かせに行ってやろうかとぼんやり考えていた。
彼らの生きるこの世界にて、闘いは行われたのであった。