四天王一凶悪と言われるOVERは、恐れられてはいるが決して悪いばかりの男ではない。
それは直属の部下である己達が最もよく知っている。
しかし、ふと本気で残酷な気まぐれをおこす男であることも間違いなかった。



「どーすんだよ!OVER様本当に行っちゃったぜ!」
「あ、あれ冗談だよね?ね?」
「あーいう顔してる時のOVER様は本気ですよー!」
「マジで!?」
「うーん…これはマジでシャレにならんな」
最後に腕組みしたインダス文明に、他の四名が注目する。
OVER直族の必殺五人衆。
先程そのOVER本人に、総入れ替えするからどこへでも消えろと申し渡されたばかりだった。

「確かにルビー、ボーボボたちに負けたです…洗脳できない相手がいるなんて」
「…僕も一対一で戦ってまけちゃったしなぁ」
年少のルビーと蹴人が落ち込むのを、三大文明は困ったように見つめた。
自分らとてボーボボ一行に敗北した身だ。負けたというならOVERもそうだが、彼は一人でボーボボを含む大勢と立派に戦ったのだ。
「OVER様、大会で俺達の代わりを探すって言ってたよな?」
メソポタミア文明がおろおろと呟く。
横にいた黄河文明は難しい顔して頷いた。
「…ってことは、ボーボボ達か?」
「確かに、俺たちに勝ったしな。アイツら」
インダス文明の言葉は冷静かつ、現実だった。
五人の空気が重くなる。
「でもOVER様、ボーボボのことは気に入らないはずだろ?」
「ボーボボの周りにいた奴らを狙うんじゃないか?」
蹴人に黄河文明が答えて、五人は己と戦った相手を思い浮かべた。
「…あのとげの子、強かったです」
「…オナラの奴もとんでもなかったなぁ」
「…OVER様、ところてんのことなんか気に入ってたらしいし」
「…OVER様のところに招待状が来たということは他の四天王にも」
「…って、冷静に分析してる場合じゃねーだろ!」
メソポタミア文明が叫ぶが、状況はどうしようもなかった。
OVERの姿は既にない。今頃はその『大会』で大暴れしていることだろう。
「どうするんですかー!」
「どうするんだよ!」
「どーするんだ!」
五忍衆のチームワークは決して悪くないが、慌てるとそれぞれ収拾がつかなくなるのが欠点だ。
それでもどうにかまとめようと、一同の中で最も落ち着いたインダス文明が深呼吸する。
「落ち着け、みんな」
「落ち着いてられるかー!」
「だがここで騒いでても結果は出ないぞ」
低くかつ渋い彼の声に、四人は黙る。輪を作ったまま互いを見つめあった。
「いいか、まず俺の考えを言おう」
インダス文明は咳払いをすると、四人を順々に見た。
「俺はここから去るつもりはない」
「でも、OVER様が…」
蹴人の言葉を制して、インダス文明は続ける。
「俺達が総入れ替えされるのはどうしてだ?」
『使えないから!』
黄河文明とメソポタミア文明の声は見事に揃った。内容が内容だけに嬉しくもない。
「そうだろう。それは確かに俺達が悪い、役立たずの側近は必要ない」
「なら…」
「そう、ならどうすればいいか。改めてOVER様に認めてもらうしかないだろう」
黄河文明とメソポタミア文明は言葉を綴るインダス文明を見つめ、ルビーと蹴人は俯いて腕組みした。
「…そういえば俺たち、最近修行らしいことしてなかったよ」
「実戦練習はしてるけどな。忍術の基本とか技の見直しとかな」
「…OVER様、荒っぽいけど真面目な方です。不真面目で負けちゃう奴は嫌いです」
「実際、ボーボボ達に技がちゃんと効いてたら負けなかったかもしれないし…」
「この際ボーボボはいいよ、どうでも!問題は俺たちだろ」
「その通りだ」
皆が冷静さを取り戻していくのを確認して、インダス文明は頷く。
「確認するぞ。みんな、この城を出るか?OVER様の部下を辞めて他の所へ行くか?」

「…考えることないです。ルビー、ずっとOVER様のくのいちでいるって約束もしたもの」
「…僕はこの城で生まれて育ったんだ。この城以外に生きたいところなんてないよ」
「…俺だって黄河忍法はこの城で生かすべきだって、決めてここにいる」
「…この城のOVER様の部屋までの道を守ってるのは俺の罠でもあるんだぜ。それを抜けちまった奴がOVER様とネズミ以外にいるなんて、そのまま諦めてたまるか」
「そうだな。…それに俺たちが、どうしてここにいるか」

インダス文明の問いに皆は顔を見合わせて、黄河文明が全員を代表するかのように深く頷いた。


「何より尊敬する、OVER様のための忍びだからさ」


誰も異議は唱えなかった。
代わりに今一度視線を組み合わせて、一斉に足を動かす。


「さっそく修行するです!」
「僕は必殺シュートを開発するよ!」
「俺たちは合体技の練習だ!今度は三人のヤツだ!」
「OVER様がボーボボ達の誰かを連れて帰ってきたらどうする!?」
「当然、それより強くなってりゃいいんだ!」


OVER城必殺五忍衆は自分達をおいて他にいない。
五人は戦士の瞳で、自分自身との戦いへと繰り出した。




その頃、OVER城から電車で暫し行った場所にて。



「あの…失礼します」
「うん?」
空を向いて昼寝していたカネマールは、透き徹った声に起こされた。
「君は…」
「スズです」
「ああ、軍艦様のところの」
ハレルヤランド前。
最近客入りがなく退屈だったカネマールは、連日の疲れを癒すためにのんびりと時間を過ごしていた。
それはヘル・キラーズや他の連中も同じことだ。
例外があるとすれば、獄殺三兄弟の長兄は厳しいからのんびりしてばかりいることを己にも弟達にも許さないかも知れないが。
「いきなりすみません。大会のことをご存知ですか?」
「大会?…ああ」
確かハレクラニが謎の招待状を受け取り、その大会を潰してやるのだと一人で出かけて行った。
一対一にて競う戦いであるということで、プライドの高い彼は部下達の同行をすべて拒否したのだ。軍艦も恐らくそうだったのだろう。
そういえば軍艦はOVERによって毛狩りされたという噂があるが無事だろうか。プルプ−もそうだ。
ついでに言えばハレルヤランドに攻めてきたボーボボ一行にスズが混じっていたという噂もあるが、カネマールは自身では確認していないのであえて問わないことにした。
「ハレクラニ様も行ったよ」
「やっぱり。ならきっと他の四天王の方も行ったんでしょうね」
「どうもボーボボ一行も呼ばれてるみたいだけどな。まあ、お祭りみたいなもんなんだろ」
ハレクラニは時折思い詰めすぎるところがあるから、息抜きになればいい。
カネマールには彼が良い戦いをするという確信があった。厳しくプライドが高く、だがそれだけ強い主だ。四天王最強の名も伊達ではない。
「…心配でじっとしていられなくて。軍艦様、無理をなさるんじゃないかって」
「ついて来るなって?」
「言われました…」
「軍艦様だって悪気があってそう言うんじゃないさ。気持ちは解るけど」
四天王は癖の強い人物が多く、部下同士気持ちの共感があることも少なくはない。
こうして休んでいても、自分を含めハレルヤランドの連中はハレクラニのことを気にかけている。例え彼がどれだけ強かったとしてもだ。
だが、主の決定を妨げることは許されない。
「それで、気晴らしに?」
「はい。ここなら賑やかで気が紛れるんじゃないかって、軍艦様を迎えに行くまで…でも休業だったなんて」

「へ?」


休業。
その言葉に、カネマールは一瞬己の耳を疑った。
確かに一昨日、休業だった。
それからハレルヤランドの売り上げが落ちてきて、そして今日。


「ええ。そういえばさっき、…その、ここを監視してるサイバー都市の人達を見たんですけど」
「…あ、ああ。たまに顔見せるよな」
「休業なのにどうして売り上げ……あ、あの?」
「ごめん、失礼!」
カネマールは慌てて立ち上がると、もの凄い勢いで駆け出した。
行き先は正門だ。
正門。
正門。
正門に行くと。
何がある。



『ハレルヤランド、本日は休業いたします』



休業のお知らせ。
それについての事柄が幾つか書かれた看板が、かかっていた。
休業日は一昨日。
ずっとそのままでいたのだ。



カネマールは青ざめて固まった。




それを他の連中に報告すればいいものを、生真面目なカネマールは第一発見者として帰って来たハレクラニに報告を行い、そして。
再び一円玉にされた。


休業明けで伸びた売り上げに満足したハレクラニが、カネマールばかりにその責任があるわけではないと気付くには更に数日を要したのだった。



さて、軍艦とハレクラニの部下がそんなことをしている時、OVERとプルプーの部下達はどうしていたのかというと。



「変なのって…変なのって言われた…変なのって」
まあまあ、そう泣かないで。チョコでも食えよ。
チョコチョコっとが励ますが、乙女の純情に付けられた傷はそう容易くは癒えない。
普段ならそれなりに気をまわすプルプーも、四天王OVERの戦いを観戦するのに夢中だった。


四天王OVER、対ところ天の助の戦い。
フィールドは氷炎地獄である。


「極悪斬血真拳奥義、カボスッ!」
「うぎゃあああアァ!………め、めげねーぞ…ところ天鉄砲ーッ…!」
「チッ!」
二人の戦いはそれなりに白熱していた。
叶えたい願いがある故か普段以上の力を発揮する天の助と、そんな彼に斬りかかるOVER。
互いに熱中しすぎた彼らは、事前に聞かされていたこのフィールドの『特徴』を忘れつつあった。

しゅん。

何かが現れ、そして消える。
その瞬間OVERが飛び上がり、遅れて天の助も飛び上がった。
「くっ!」
炎の床へと変化をとげた足場からやや熱を負い、OVERが舌打ちする。
その斜め横の足場では天の助が半泣きで溶けていた。
「面倒なフィールドだぜ…」
「…ねえねえ、今アンタの部下いなかった?」
「ああ?いるわけねーだろンなもん!殺すぞ!」
「いたよ!見間違えねーよ!無限蹴人だよ!俺あいつに踏まれたもん!」
ほらあそこ、と泣いて指差す天の助をOVERは相手にもしない。
が。
その瞬間天の助の後ろ側、OVERの視界の中に見覚えのある姿が現れて消えた。

「黄河…?」

「え?あの自分の汗で凍ったおわちゃあ!」
どうやら天の助のいた足場が凍ったらしい。べちゃ、と転んだ音がした。
「うう…ひどいじゃねーか、三対一…」
「知るか。俺が呼んだんじゃねーよ」
「じゃあなんであいつら、ここにいるんだよ。修行か?」
めげない天の助は起き上がり、立ち上がると転ぶからか座り込んだまま問うた。
試合中だというのに。
「…修行」
OVERは小さく呟いたがすぐに、く、と呻いた。
「…知らねえな。それよりテメー、蹴人に踏まれただと?」
「踏まれたよー!すっげー楽しそうだったよー!」
「ほう…じゃあ俺はそれ以上にぶった斬ってやるとしよう。足下からな」
がしゃん。
鋏を構えたOVERに、天の助は震え上がった。
「ちがう!踏まれたのは背中!背中!」
「じゃあ前からだ…逃げるな、オラ!俺の部下になりたけりゃ耐えてみやがれ!」
「ギャー!!部下になりたいなんて言ってなーい!」

OVERはもう背後でも目の前でもなく相手だけを見ていたが、先程見た影を間違いとも思わなかった。
あの騒がしい連中の面ならばひとつひとつ、嫌でもよく覚えている。
天の助を斬って飛び降りた足場は、未だただの床だった。
「…先にあいつらをなんとかした方がいいんじゃないかー?」
再生して遅れて降りてきた天の助は、先程までOVERがいた方の足場が炎の海になっていくのを見上げてぼそりと呟いた。
OVERも内心そんな気がしたが、今は目の前のところてんを好き勝手斬りきざむことの方に熱中することに決めた。


「…うるせえ!」
「…うぎゃァ!いつもの三倍バラけておりますーッ!」


必要ならば、己の前に真実が現れるだろう。
OVERにとっては未だ、これが初戦であった。












ハジケ大戦の裏側、留守番していた四天王の部下達。やっぱり妄想だらけです。
OVER様は色っぽかった!攻めとしても受けとしても萌えます…!
五忍衆を讃えつつ、勇気ある報告をしたカネマールや軍艦を気遣うスズにも拍手を送りたいと思います。
あとラムネさんや、OVER様に真っ先に声かけられた天の助にも…(笑)

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