「愛されてるわけじゃねえのに」
「ええ」
「お情けですらないぜ?」
「…ええ」
「期待させる気すらなくても」
「それでも」

いいんです、私は。
そう言って笑うその幸せそうな表情に、龍牙は口元をつり上げて笑み返した。嘲笑ってやったつもりだったが、まるでそんなものは見えていないようだ。
取るものは取った。今日はもうこの男に付き合っている意味などない。
どうせその甘く曇った瞳は、当分他のものをまともには受け入れまい。
黙って振り返り、空間を埋め尽くす紙幣を避けながらその場を去った。






夢をみること



電脳都市の支配者ギガの配下、電脳六闘騎士。その名の通りに六人の、サイバーシティの裏切り者を罰する処刑人。
処刑はこの街を最も脅かすものであり、同時に間違いなく一番の名物でもある。処刑台で起こる裁きの一部始終を見るために所狭しと人が集まり、金を賭けては一喜一憂する。
裁かれるのは当然、罪を犯した者。その中でも何より多いのがこの街のあり方に耐えられなくなった脱走者だが、皆逃げ切れずに六つの処刑台に送られた。
そしてそれを心待ちにする者がいる。多くの住人達が。処刑人が。
六闘騎士の一人である王龍牙は、そんな欲望の溢れるこの街が好きだった。最近はギガが趣味にしているオブジェの為に真拳使いを狩る毎日であったが、処刑人としての仕事を他の連中に任せてしまう気にはならない。
別に真面目くさっているわけではない。己の技に捕らえられる者を見るのが好きなら、倒れる者を見るのも好きなのだ。


「やあ、龍牙。強い真拳使いは見つかったかい」
にこやかに呼び止めてきたのは同じ六闘騎士であるパナだった。
「雑魚ばっかりだ。お前こそ、無駄にハデなパフォーマンスの帰りか?」
「酷いな、無駄だなんて。車輪は芸術だよ」
妙に機嫌がいいのは、どうせ妙な形をした処刑場をかけまわるパフォーマンス、を兼ねた仕事を終えた直後だからだろう。
「龍牙も一緒にやればあの楽しさが解る」
「冗談!お前とソニックに付き合うのだけは御免だね」
笑い飛ばして、再び歩き出す。
牢獄真拳によって捕獲した真拳使いをギガのところまで連れて行く手配をして、次の仕事のことを考えようと思えば今日の処刑は全て終わっている。いっそ楽しげなパナを蹴り飛ばしてやろうかとも思ったが既に通路の反対側へ行ってしまったようだった。
ソニックは逆さ吊りにされているのが落ち着くパナの同類だから、まだ変な部下達とびよんびよんやっているのだろう。処刑人である前に車として生きることを楽しんでいるクルマンは地獄の教習所を走り回っているだろうし、自分の世界が好きな詩人はあの文字だらけの部屋にいるはずだ。Jはいつでもこの都市の核にいる。そこで何を考え、何をしているかまでは解らない。
六闘騎士にはそれぞれの役割があり、自由な時間があってもそれぞれがそれぞれの好きなことをしている。
龍牙はその自由時間を迎えるためにもう一つ仕事をこなさなくてはならなかった。
雑魚どもを一通りオブジェにし終えたギガに報告をする。
ハレクラニのことを。




「今日の材料どももくだらねェガラクタばっかりだったぜ、龍牙」
ギガは皮肉らしい言葉を楽しげに呟いて龍牙を迎えた。
「申し訳ありません。しかしギガ様を楽しませるような真拳使いなど、俺はまだ見たことがない」
今日連れて来た連中の中にろくな真拳使いがいなかったことは龍牙もよく知っている。それこそギガと張り合う実力者など見当たらなかった。
「それもまあまあのオブジェになってくりゃあいいんだがなァ」
駄作揃い、だったわけだ。
こればかりはオブジェ真拳の使い手でない者には解らない。
「まあいい…で、龍牙」
「はい」
直属の部下である六闘騎士にとってもギガは遠く恐れるべき存在だ。
理解できないことはいくらでもある。
「…で、ハレクラニのところにボーボボが近づいているようです」
「へぇ…ツルリーナの四天王とやらも大したことねえな」
ハレクラニのことも、そうだった。
金を巻き上げる時には龍牙や他の部下たちやらをやるくせに、書類だけでは済まさずにこうして呼びつけ直接報告させる。
「ハレクラニちゃんがやられちまった三人と同格かそうでないか、腕の見せ所ってわけだ」
たまにハレクラニをこちらに呼びつけることがあった。逆に、ギガの方から向こうに行くようなことはない。
「で?」
「…あとはまあ、ギガ様によろしくお伝えください、と」
「あっそ。じゃ、もう行っていいぜ」
ギガが彼を呼び出して何をしているのかはだいたい知っている。
最初はギガがハレクラニに何らかの感情を抱いているのかと考えて、まさかと笑ったものだった。口に出すには恐ろしい冗談だったが、ハレクラニのところまで出向いてはギガに報告することを繰り返す内にその関係が見えてきた。
ハレクラニはギガの玩具だ。
惚れ込み、自ら服従し、命令されれば逆らわない出来の良い人形。



「…それでは失礼します。ギガ様」
「ああ」

ハレクラニの方はギガのこととなると、喜びでも憎しみでも悲しみでも困惑でもないような複雑な表情をする。普段は澄ました顔を、幼い少女が戸惑うような、甘い夢を見ているような、そんな風に歪める。
利用され支配され痛めつけられているくせに。
大の男のくせにその表情がいやに似合うものだから、ギガ様はお前のことなど愛していないのだとからかってやった。
ハレクラニは、それは幸せそうに笑った。

それでもいいんです、私は。
意味などなくても、充分です。

奴の部下どもに見せてやりたいような顔を、声を、ただ笑い飛ばして立ち去った。







部屋に戻る最中にソニックと会った。逆さ吊りになっていなければごく普通の男だ。少しだけ彼と話して、この場所の空気がギガの部屋とはまったく違うことに気付く。
同じ建物なのにまったく違う、あの場所。それはもういくつかも解らないオブジェの山や、薄暗い照明や、付き人の女達のためではない。
ギガの持つ威圧感、強さ、狂気、様々なもの。

あの場所でハレクラニはどんな顔をするのだろうか。
どんな声で、愛しいものの名を呼ぶのだろうか。
返ってこない想いを叫ぶのだろうか。

全てが虚ろな夢のようで、そんなことを考える己を本気で笑い飛ばしてやりたくなった。












王龍牙から見たギガハレ、王→ハレ風味。
王龍牙さんはへっくんをさらった人です。破天荒にやられた人です。
六闘騎士の皆さんの仲は結構良かったんじゃないかと妄想してみました。
ハレクラニ様がちょっと夢見がちすぎました…

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