「あ?何の音だ?」
「さあ。…ギガ様、退屈ですか?」
「同じような絵だらけじゃん」
「なら増やしましょう」
「金賭けてねェのに楽しそうだな、ハレクラニちゃん」
「なな、なんや今の音!?」
「音?なんの音〜…?」
「ここで眠るのは我慢しろ、レム。…どこか爆発したようだな」
「くっ、爆発よりか音楽が耳について離れねえ…」
「…悲しいほど遊びすぎたからだよ」
「あ、ゲームオーバーだ!クソ!」
「テメーもいつまでやってんだ?」
ギガとハレクラニも、旧毛狩り隊最高幹部一同も、そして他の場所にいた六闘騎士やハジケ組、ライス達も、皆がその音を聞いた。
そして、それでもボボンバーマン会場は持ちこたえたのだった。
「バ…カ…野郎が!なんてモン仕掛けてんだッ!」
「す、すみませんOVER様…ボンバーマンの醍醐味はやっぱ爆発だよなって…」
「俺たちも聞いてなかったぞ…」
「俺にも秘密にしてたなんて…メソポタミア、ヒドイ…」
中にいる連中も流石と言おうか、無事だ。
が、瓦礫が散乱するわ上にいた連中が落ちてくるわで酷いことになっている。
「…ビュティ、無事か?」
「あれ、ボーボボ!?上にいたんじゃ…」
「どうにか間に合った。ソフトンのおかげもある」
ソフトンが飛んできた瓦礫を撥ね除けている間に、ボーボボがビュティを避難させたのだ。同じく彼女の前に立ったヘッポコ丸もどうにか無事でいる。
が。
「あれ!?あ、天の助…!?」
「おーい!ところてんが大変だ!」
天の助の名前を覚えないクルマンが叫んだ。
「…て、天の助?」
天の助は、瓦礫の下で泡を吹いていた。
白目も剥いている。息も絶え絶えだ。
「おい?」
バラバラにされた時とは異なる反応に、ヘッポコ丸が眉を顰めるが天の助は答えない。
「おい、天の助!?」
「…どういうことだ、物知り坊主」
不機嫌な声が降ってくる。
「ぶった斬られるのは平気で下敷きが平気じゃないなんてことはねぇだろうな?」
「し、知るかよ!」
「テメー、物知り坊主だろうが」
「誰が物知りだ!俺だって」
「おいコラ、起きろ!」
「何やってんだ、蹴るな!」
OVERとヘッポコ丸が睨み合う。
間で未だに瓦礫の下敷きになっている天の助を、蹴人がつついた。
「おい?」
天の助の意識は既に戻っているようだ。が、困った様な顔で固まってそのままでいる。
「大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫だけどさぁ…」
「じゃ、起きろよ」
「今起きたら、カボスだよね」
「ザクロくらいで許してくれるんじゃないかな?ケガ人だし」
「あいつが俺のことケガ人だなんて思うかよー!」
蹴人の横にルビーがちょこんと座る。
「OVER様、あれでも心配してるですよ」
「…えー」
「どうでもいい人なら構ったりしないです」
「よ…よく知ってんだな、お嬢ちゃん」
「OVER様、ルビーにちょっと甘いからね」
「ふーん。やっぱお父さんじゃん」
ぷ、と倒れた体勢のまま吹き出した天の助。
の顔に爪先が入った。
「ぐばっ!」
「あ、OVER様気付いた」
「目ェ覚めてんじゃねーか、天の助ェ…」
「おい、やめろってば!」
ヘッポコ丸が叫ぶと、OVERは足は動かさずそちらを向いた。
「ムキになるなよ、坊主」
「坊主じゃねーよ!」
またも二人の睨み合いが続く内に、三大文明のその場に寄ってくる。
「よかったぁ、これでお前に何かあったら俺にカボスくるっぽいよ」
「いやぁ、無事そうでよかったよかった」
「お前、OVER様に以外には体大切にしろよー」
メソポタミア、インダス、黄河の順で天の助に語りかける。
「…は、はってな……ひ、ひいんらけどは、あひどかひて…あひ…」
天の助は再び白目を剥きかけていた。
車ゆえの機敏さかほぼ無傷のクルマンは、上にいた連中の救出に律儀に励んでいた。
とはいっても、やはりメンバーがメンバーなので各々無事でいるようだ。
「お、おやびん…大丈夫ですか」
「パチ美負けない…で、でも、最後に朝日を見たかった…」
「…見に行きましょう、おやびん!朝日でも夕陽でも!」
首領パッチを庇った破天荒は、既に元気なはずの首領パッチに付き合っている。いや本気かもしれない。
「…あのひと、私を庇ってくれなかった……」
「いやまあ、彼も彼なりにきっと事情が…」
「解ってますプルプー様!解ってるんです!でも期待したっていいじゃないですかー!」
「…と言いながら無傷ですね、ラムネさん」
嘆くラムネ。彼女が切なげに握った拳には、辺りからたまたま拾った田楽マンが掴まれたままでいる。
(離してやれよ)
苦しげな田楽マンをチョコチョコっとが気遣うが、暫し彼らには聞こえそうにない。
「フン!」
「おお、お見事」
その脇では、クルマンが手を貸す前に覇王が瓦礫を撥ね除けた。
「カッコイイぜ兄者!…あれ、ビープ?」
メガファンはきょろきょろと弟の姿を探すが、側にいない。
ようやく見つけたと思えば、俯いたまま顔を抑えて何かを探していた。
「お、おいビー」
「あ、兄者……僕のマスクー」
「いや、いいだろマスクなんて!」
「だって僕の…僕の美しい顔に擦りキズがっ」
「ビープよ…」
呟くメガファンの横を、ビープに向かってマスクが飛んだ。
「ほらよ」
「あ、マスク!」
「ああくそ、散々だ」
マスクを投げたのはガルベルだった。服に着いた埃を払いながら溜息を吐く。
「T-500…ってお前、なんでそんなキレイなままなんだ?」
「緊急時にこそデータが役に立つ」
T-500の自慢の片目は、よほどの馬鹿を相手にしなければ身を守るためにも十分機能するようだ。しれっと答える同僚に、ガルベルは埃を払いつつも舌打ちした。
その頃、軍艦とスズは外にいた。
メソポタミアの声にギリギリで反応したスズが、とりあえずすぐ側にいた軍艦の腕だけは掴んでテレポートしたのだ。
「ほ、他の皆さんも連れて来れればよかったんだけど…」
「すまんな、スズ。他の連中も無事だろう…あいつらだし」
「…はい、軍艦様」
スズは小声ながらも呟いた。
直後、この場を覗く気配を感じる。
「誰?」
「…!!」
影がゆっくり姿を現した。
無表情ながらも多少気まずそうにしたその男は、ふいと背中を向けた立ち去ろうとした。
「あ、待って!」
「……」
「誰かに用があるんじゃ?」
男は立ち止まって暫し無言のままだったが、スズも軍艦も何も言わないまま続いてようやく口を開く。
「…会場の、中に」
やはり背中は向けたままだ。
「天の助た…、!!」
言いかけて、首を振る。
「天の助さん?」
「…ところ天の助は無事か?」
「あの人なら、ちょっとやそっとじゃやられないと思いますけど」
「…だろうな」
それだけ言うと、男は走る様にして今度こそ姿を消した。
呼び止めようとしたスズの声も間に合わない。
「…ああ、行っちゃった」
思わず呟くが、答えはなかった。
軍艦がスズの横まで歩み出る。
「…ところ天の助は元Aブロックの隊長だったそうだが」
既にその背中は見えなかったが、彼が毛狩り隊関係者かと思われるスキンヘッドだったのは間違いない。
ただ、隊員の制服は着ていなかった。
「その頃、部下だった男かもしれんな」
「…教えてあげるべきでしょうか」
「スズが選べばいい」
スズはゆっくり頷いて、爆発後別の喧騒が巻き起こっているらしい会場の方を向く。
そして天の助に、口元にピアスを付けた男の話をするべきかどうかを迷った。
そして、デスマネースロット。
先程まで二人きりだったのが今は三人に増えていた。
ギガにそろそろ終了の時間だと報告に来てハレクラニの存在に驚いた王龍牙が、ギガに適当に引き止められ居心地悪そうに座っている。
「……」
口を付けたティーカップはハレクラニの私物らしい。ここにはそういったものが揃っていて、中の紅茶も彼の煎れたものだった。彼らしいといえば彼らしい。
「おい龍牙、さっきの爆発はなんだ?」
「…さあ。ボボンバーマンの方からでした」
「ふん、じゃあ誰もくたばってねえか…あの程度でくたばるヤツなら必要もないがな」
ギガはクルマンが案内して一同を連れ歩いていることなど知らない。同じく、龍牙もだ。
ハレクラニもその件については触れず、黙ってカップを取った。
「龍牙様はどちらを?」
「…なんとかデュエル」
「変なカードゲームだろ。客、来たのかよ?」
「いえ。まあそもそも、興味ないんで」
龍牙は外を見て、溜息を吐く。
「…ご命令ならやりますが」
「だろうな、お前らしいじゃん」
ギガはどうやら、その反応に満足したようだった。
「普段からこんなんやってる奴は大した根性だぜ。なあ、ハレクラニちゃん」
「恐れ入ります」
目を伏せるように礼をしてみせるハレクラニ。
龍牙はぼんやりと、それを見ていた。
模様の細かいティーカップのよく似合う男。そして、ギガの隣が不思議と似合う男だ。
否、ギガが彼の隣に合っているのか。
「……」
溜息も舌打ちも心の中でして、熱い紅茶を飲み干す。
パナやソニック、クルマンはもちろん詩人でも、この状況を見れば中に入ることを躊躇うだろう。
微妙な居心地の茶会はまだ続くようだった。
結局それで全てのミニゲーム会場をまわったことになり、ボーボボ一行はカードショップの前まで戻って来ていた。
OVERは結局魚雷ガールには戻らず、部下達を連れてそのまま城に帰るようだ。
軍艦も同様である。
ハレクラニは戻らなかったが、クルマンがヘル・キラーズに彼がデスマネースロット、つまりギガのところへ行ったことを教えると五人揃って飛んでいったことは確認している。
「そういえばさあ、ボーボボ」
「ああ」
カードショップを目の前にして、歩きながらビュティが呟いた。
「大騒ぎしてて気付かなかったけど、サービスマンがいないんだよね」
「ああ、騒ぎの最中いつの間にかな。どこに行ったのか…」
カードショップの扉が開く。
「サービス!」
「わ!」
華麗なる不意打ち。
皆、一歩引いた。
「サ、サ−ビスマン!なぜここに!」
「サービスは愛…愛こそサービスなり」
サービスマンは神妙な顔で語る。
「この店もまたサービス!なのに場所を空けるとは何ごとかッ!」
「ああっ、僕が間違ってました!」
くわっと目を見開いたサービスマンに、クルマンがひれ伏した。
「ここ、もうひとり担当がいるもんだからつい!」
「え?」
「ここに別の奴なんていたか?」
首領パッチと天の助が顔を見合わせる。
「ん?ああ、ほら師匠のコーナーがあるだろ」
「そんなところにまで代役がいたのか?」
「いたにはいたのだがな」
ボーボボの問いに答えたのは、クルマンではない別の声だった。
「む、お前…ハンペン!」
「師匠繋がりということでわしがやる予定だったのだが、それでは忙しいので幹部で持ち回りということになってな」
「…だが、皆そこにいるようだな」
ソフトンが確認する。透明の自動ドアの外には、他の六人の旧毛狩り隊隊長達がいた。
どうやらランバダがまだ天の助に怒りを抱いているらしく、他の連中がどうにか天の助を彼の視界に入れないようにと必死だ。
ソフトンと目があった菊之丞が天の助を指差し、ジェスチャーでそいつを隠せ!とやってきた。
「天の助、隠れた方がいいのら。人気者は大変なのらー。ぷっ」
「もう隠れてます…笑うなよッ」
「…ふう」
天の助に後ろに隠れられたヘッポコ丸は、その場から動かず苦笑した。
「三世様もやってくださるとおっしゃっていたのが、気が変わって帰ってしまわれて」
「三世ー!?あの人が!?」
「客が来るわけでもなし、何かもうどうでもよくなってな」
「む。サービスが足らん!」
「それでみんなゲームで遊んでたんだ…」
ビュティは呆れ半分に頷いた。
ボーボボの仲間が皆ここにいる。サービスマンもいる。
四天王がいる。サイバー都市の連中がいる。旧毛狩り隊がいる。
ハジケ組の連中がいればライスもいたし、現毛狩り隊の幹部らしき連中もいた。
とても不思議で恐ろしく疲れた一日だったが、終わってみれば悪くない日だと思う事もできる。
(…のかな?)
少しだけ遠い目をして、それでもビュティは笑った。
今日一日、戦う者達に笑顔がありますように。
一輪の花の願いは、風に乗って世界へ広がってゆく。