「え、今日が誕生日?マジで!?」
「ああ」




何気ない言葉に、そこまで飛び退かれるとは思わなかった。





お祝いの日



「ばっ、なんで早く言っとかねーんだよー!他、誰か知ってんの?」
「いや?言ってないけど」
「言ってないって…誕生日だろ?」
「そうだけどさ、もうそんな小さい子供ってわけじゃないんだし…そんなめでたいか?」
ヘッポコ丸は苦笑いしてそう返した。
「めでたいじゃん」
「うん、まあありがとな」
有り難い言葉ではあるが、実際もう子供でもないつもりだ。
それに今はボーボボを中心として毛狩り隊との戦いの最中、自分もより高みを目指して強くなっていかなければならない時期である。個人的な祝い事を騒いでくれなどとは言えるはずもない。
「祝うにしたってさ。平和になってからでいいよ」
「平和って、毛狩り隊がなくなったらか?」
「…そうなるかな」
「…んなの、いつだよ」
天の助はもったいない、と言いたげに呟いた。
「こんな時だからこそ大事にしよーぜ、大切な日じゃんか」
「そんな、大切か?」
「だってお前が生まれた日なんだぞ?」
きっぱりと言い返してくるものだから、少しばかり恥ずかしくなった。
天の助は確かに祭り事が嫌いではない性格だろう。それは他の連中も恐らく同じなのではないかと思う。
だが、そんなに祭と呼ぶようなことでもないはずだ。
「パーティとかしたいと思わない?」
「そんな大袈裟な」
「だってAブロックでは毎年やってたぜ!」
と、そう叫んでから、天の助はこほんと咳払いをした。
「…あー、そう、毛狩り隊も下っ端はお祭り騒ぎが好きなんだ」
「下っ端ってさ」
ヘッポコ丸が笑って返してやると、天の助は幾らか安心したようににやりと笑った。
「だってOVERとかが部下のために誕生日プレゼント用意してたら、どうよ?」
「はは、まさか」
ヘッポコ丸は思わず吹き出した。
確かに彼の部下には少女もいたが、あの凶戦士が幼い女の子のためにプレゼントを選ぶ姿というのもまたなかなか思いつかない。
何か想像でもしたのか、天の助は笑いを堪えている。
「でもブロックって凄い人数じゃないのか?」
「ああ、だからひと月に一日決めてやるんだよ。で、一番誕生日近いヤツがひとこと言わされんの」
「なんか罰ゲームみたいだなぁ、それ」
「かもな。まあ、決めたの俺だけど−」
天の助はけらけら笑いながら、ヘッポコ丸の前にすっと片手を差し出した。
握り拳は作れないがマイクのつもりであるらしい。
「ヘッポコ丸くん、今年の抱負をひとつ」
「え?」
「さ、言ってみ言ってみ。遠慮せずにホラさあさあさあ!」
ずずいと前に出てくる天の助に思わず一歩引きながら、ヘッポコ丸は頬を掻く。
「…えーと」
「なに?」
「待ってろよ、えーと……強くなることかな」
「…なんだぁ、めっちゃフツーじゃん」
「悪かったな!」
お前が聞いたんだろ、と叫んでまた少し考える。
抱負と言うほどのものでもない、が。

「…身長。伸ばしたいかな」

「おー、いいじゃん。牛乳いっぱい飲んでところてんいっぱい食えよ」
「ところてん!?背、伸びるのか…?」
「バカ、ところてんだぜ。当然だろ」
何が当然なんだ。
そんなことを問うて天の助を怒らせるのも面倒なので黙っておくが、しかし誇らしげなこの態度。
「まあ、まだ伸びる時期だしもっと上にいくさ」
「そっかぁ。人間だとビュティとかヘッポコ丸くらいが伸びる時期なんだよな」
「…うん?ああ、そうなるかな」
まだまだ伸びていく、はずだ。
「いいなー」
「そっか。お前、身長」
「やろーと思えば細ながーくなれるぜ。ホレホレ」
「わ!」
にゅう、と体を縦に伸ばそうとする天の助に思わずまた飛び退く。
好きに身体の形を変えられるというのはどんな感覚だろうか。
それはまた、成長とは異なる。

「まぁ、つまりさ。誕生日は祝おうぜ、せっかくだから」
「…そーだな」
「みんなにも言わね?ビュティとか祝ってくれるだろーし、ボーボボとか首領パッチとか田楽マンもそーゆーの好きだろうし、デコッパチもソフトンも魚雷先生も嫌いじゃないだろ」
「あ…ああ」


天の助はところてんだ。
生まれたのは、何かの工場だろうか。


「……」
「…どーしたんだ?」

彼と同じ故郷で生まれてきたものの内、どれほどが誕生日という日を迎えたろう。

「ヘッポコ丸?」
「…いや」

そして自分と同じ故郷に生まれてきた者達は、何をしているだろうか。


「…ちょっとさ、色々」
「ま、誕生日だからな」
そんなことを言いながら、天の助はふと何か思いついたように腕を組んだ。
そしてヘッポコ丸の顔をじっと見つめる。
「…なんだよ?」
「いやさ、ヘッポコ丸が身長伸びたとこってなんか考えつかね…」
「なんだよ、それ」
失礼だぞ、と軽く睨むと、天の助はぷるぷると首を振った。
「へっくん、怒っちゃイヤー」
「…見てろよ。伸びてやるから」
「デコッパチくらい?」
「ボーボボさんぐらいだ!」
言い切ると、ぽかんとした表情が返る。
「…それ、デカすぎじゃね?」
「いいんだよ」

あの人ぐらい強く、大きくなるんだ。

「…いいんだ」
「そっか」

そしたら。

「ま、頑張れや」

今お前より少し大きい体も、見下ろせるぐらいになるだろう。

「ああ」
「…なんだぁ、ヘッポコ丸。その笑い」
「別に」
「なんだよ−」

だから。

「まーいいか。そいじゃさ、とりあえず」
「ん?」

いつか、俺がお前よりずっと大きくなった日に。


「…ヘッポコ丸、誕生日おめでとー!」


心の中からきっとたくさんのものを込めて、そしてありのままその言葉を紡いでくれるお前が、
側に在ったなら。


「…ああ。ありがとう」




俺の、この腕で抱き上げることだってできるのだ。












その時は、一緒に笑い合えるといいね。
ヘッポコ丸、九月二十三日お誕生日おめでとうございます。
屁天で、しかもこんなのでごめんなさい。誕生日に対しての考え方といっても色々あるでしょうが。
彼が、そして彼の周りの人々が、これからも笑顔でありますように。

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