「ハッピーハロウィーン!オレヒロイーン!」

雄叫びとともにやってきた体当たりをあびてヘッポコ丸は転倒しかけた。
いつの間にか消えていた首領パッチが、何かよく解らないスパンコールのきらめく黒い服を身に付けて戻って来たのだ。他の連中は、近くだからと一人で散歩に出かけて行ってしまったビュティを除いて皆ここにいる。
「なにすんだ!」
抗議しても首領パッチは気にした様子すらない。
「それに何だよ、ハロウィンって…」
「遅れてるぜ、ヘッポコ丸」
ニヒルな声とともにす、と手が差し出された。
手というかところてんなのだが、手は手だ。天の助の一応は好意、に甘えようとしてヘッポコ丸は目を見開いた。
天の助はサンタクロースの衣装を身にまとい、袋まで背負っていたのだ。しかもその袋ときたら白地にぬの字の羅列。
「先走りすぎだろ!」
そこに首領パッチのタックルが再び、今度は天の助の腹に決まった。
「あわてんぼうが−ッ!」
「アイタタドンドンドン、ってぐばッ!」
ぬンタクロースはクリスマスへと飛んでいく。
「天の助ー!」
とりあえず叫びながら、ヘッポコ丸は既にこの状況から置いていかれかけている己を感じた。
おそるおそる背後を向く。
そこにはボーボボがいた。しかし、ボーボボはカボチャだった。
「ハッピーハローウィーン」
「ボーボボさん!?」
ボーボボがカボチャというかカボチャがボーボボといおうか、サングラスと顔が彼の面影を残しているがアフロは欠片もない。
そこに魚雷ガールがねじり鉢巻で歩み寄ってくる。
「ソフトンさん、今カボチャをくり抜きます!」
「カボチャ…なに!?」
ソフトンは明後日の方向を向いていたらしく、魚雷ガールの声で状況に気付いたようだ。
魚雷ガールはヘッポコ丸の「ストップ!ストップ!」という声と首領パッチと天の助の友情のつねり合いをBGMに、ボーボボカボチャにマジックで線を入れる。
が、そこで突如カボチャが砕けた。
「な、カボチャが!」
「わー!ボーボボさーん!」
「カボチャ太郎!登場!」
中から現れたのは田楽マンだった。
彼は普段なぜかボーボボのアフロの中にいるので不自然なこともないが、むしろ冗談にならなかった。
「さあ、俺を育てろ!そして鬼退治に送り出せー!」
「よくもカボチャをー!」
「ぐばッ」
魚雷ガールが嘆きつつ田楽マンを吹っ飛ばした。
彼らのことはソフトンに任せておいて、ヘッポコ丸が叫ぶ。
「ボーボボさーん!!」
「なに?」
斜め後ろから返事が来た。
ヘッポコ丸が振り向くと、そこにはボーボボカボチャ。天の助カボチャ。スパンコール衣装の首領パッチカボチャ。
「……」
もはやツッコミをする気にもなれなかった。

そんな空間を割るようにして、ビュティが駆けて来た。
「…わ!何この状況!?」
「遅かったな、ビュティ」
ボーボボカボチャに煮られながら首領パッチカボチャが言った。
天の助カボチャは既に溶けている。
「首領パッチ君が早いんだよ、って二人ともー!?」
「あー、いいお湯ー…」
言いながらも既に原形を失いかけている天の助を、苦戦しながら鍋から引きずり出すヘッポコ丸。
「ビュティも食うか?カボチャ」
「首領パッチ君じゃん!」
ボーボボはカボチャに飽きたらしく、元の姿に戻っていた。天の助も既に溶けたカボチャではなく、溶けたところてんだ。
「じゃ、俺食べよ」
ボーボボは首領パッチの鍋を持ち上げると、精一杯傾けて口の中へ流し込んだ。
「ボーボボー!?」
「まずい」
溜息混じりにアフロが開かれる。
と、そこから首領パッチが飛び出して三回転半を決めてから着地した。
「ふ…10.0」
「…もういいよ…」
ビュティもツッコミをやめてしまった。


「…おやびーん!!」

そこにもう一つ、嵐が舞い戻った。
「あれ、破天荒さん!?どこにいたの?」
「さっき『おやびんどこ行った?』っつってたの見てから、見てなかったなぁ」
すっかり元に戻った天の助が呟いた。一行が思い思いに休んでいる間に、破天荒も首領パッチを探してその場から消えていたらしい。
「おやびん、探しました!」
「そーかそーか、それよりこの衣装どうよ?似合うか?」
「ハイ!お似合いです!」
破天荒は首領パッチをきちんと見ているのだろうか、一秒と待たず褒め讃えた。
「そーだろそーだろ。頑張って作った衣装だからな!」
「えー…」
否定はしないものの、首領パッチの衣装作成を見ていたビュティから疑問の声があがる。
「首領パッチのあのふざけた衣装はなんだ?」
横から聞こえてきたボーボボの声に、ビュティは肩を竦めた。
「なんかね、ハロウィンだって」
「そうか。そんなのもあったな」
「ボーボボは興味ないの?」
「ハロウィンの主役って時期はもう昔のことだ」
ボーボボは軽く頷いた。
「ビュティはお菓子いるか?」
「私だってもう十四歳だよー」
子供に見えるの、と苦笑いして返すと、ボーボボは首を振った。
「甘いものが好きならいいだろう」
「えー?」
「俺はパンにはジャムよりバター派だし…」
いまいち噛み合ないような通じているような二人の会話を見ながら、天の助が何か考え込んでうーん、とうなった。
「……よし。ヘッポコ丸にはところてんを」
「いや、ところてんって菓子か?」
「黒蜜かけりゃ甘いぞ!」
「…俺も子供に見えるのか?」
隣に座るヘッポコ丸の少々不機嫌な声に、天の助は笑った。
「十八も年下じゃーん」
「まあな。でもお前だって中身は子供だろ」
「ンなことねーよ!」
「ある!」


じゃれ合いだした二人、そして破天荒と首領パッチ、ボーボボとビュティ。
それらに順に目をやってからソフトンはやや大きめに叫んだ。
「皆揃ったようだしそろそろ出発するか?」
「あ、そうだね」
「もー結構ここにいるもんな」
一同は頷いて、それぞれ立ち上がるなり身支度を整えるなりをし始める。
「ハロウィン懐かしいのら。昔いっぱいお菓子もらったのらー」
子供扱いされてしまっていた田楽マンは、しかし甘いものは嫌いではなかったらしくいい思い出を蘇らせているようだった。
「ハロウィンか…」
「…なにか、いい思い出がない気がするわ」
「魚雷殿、ハロウィンに何か?」
「ギョラ?いえいえ、そんな大したことじゃない…と思いますわソフトン様!」
魚雷ガールが笑い終える頃には、皆準備を整えていた。
田楽マンをアフロに放り込んだボーボボがなんとなく先頭になって、ビュティがそのやや後ろを進む。彼女の背中側を守るようにしてソフトンが続き、魚雷ガールが横に立つ。その後ろで天の助とヘッポコ丸が未だ言い合いを続け、やや離れるようにして首領パッチと破天荒が歩く。




前の方の騒がしさなどそっちのけで、破天荒は首領パッチを見ていた。
二人きりの静かな道ではないが、隣に首領パッチがいると思えば十分に幸せだ。
「おやびん。そういえばハロウィンの時期だったんですね」
「おー」
「お菓子を用意します」
「あと、タケノコやんなきゃな。二人だけど、他の連中も放り込むかー」
「二人でもできますよ」
微笑みながら、破天荒は黒い衣装で目の部分以外を覆い隠した忍者のような首領パッチを見た。
黒い衣装を纏っても彼の光は確かにそこにある。飾りのスパンコールなど見劣りしてしまう。隠されていない青い瞳が、いっそう輝いて見えた。
首領パッチはしばらく黙ったまま歩いていたが、視線の先にて後ろも気にしない勢いで騒ぐヘッポコ丸と天の助を眺めながらぽつりと呟いた。
「…ランプ」
「え?」
「ハロウィンの夜は、ランプだな」
「ランプ…」
今はまだ太陽も高く、ハロウィンのその時ではない。
首領パッチは視線を破天荒にやった。破天荒からも、視線が戻る。

「お前、覚えてるか?ランプ」
「…はい…はい、おやびん!」

前を歩く連中の声が耳を素通りしていく。
本当ならば今すぐにでも、彼を抱き上げてしまいたかった。
だがハロウィンの夜にふたり出かけて、あの日のように夜道を歩くのも悪くないと。

破天荒はそれは幸せそうに笑いながら、いつの間にか黒い衣装をどこかへ仕舞ってしまった首領パッチを眺めていた。












ハロウィンが近い時期です…というのでこんなものを。
おばけカボチャの中身は食べられないそうです。種はトーストして食べられるとか。
言い訳どころはいっぱいですが、とりあえずハジケ村のハロウィン(?)は嘘っぱちです…
ランプ=抱っこ。なんでやねん。すみません。

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