あるところに、田楽マンがいました。



田楽マンは七人兄弟の末っ子です。けれども家族と上手くいかず、心からの友達を作ることができず、どんなに賑やかなところにいても、どこかずっとひとりぼっちでした。
田楽マンは悪い子ではありません。ただ、ちょっとだけ不器用なのです。
いっしょうけんめいに頑張って、偉くなってたくさんの部下もできたのだけれど、『ともだち』はできないままでした。





だけど、それももう『すこし昔』のことです。




でんがくものがたり



「田ちゃん」
にっこり笑って話しかけてきたのは、ビュティ。かわいらしくて明るくて、とても優しい女の子です。
「ボーボボ見なかった?」
「んー…しらないのらー」
「そっかあ」
ときには厳しいことも言うけれど、それはそうする必要がある時のこと。今はいつも通りの様子で、ちょっと残念そうに首を傾げてきょろきょろと周りを見ています。
ビュティは、ボーボボの背中を追いかけています。こうして休んでいるときも一緒にいられたらと思っているのです。
そのことを知っている田楽マン。黙ってビュティを見送ってから、彼女とは逆の方向へと歩きだしました。





「ん。田楽マンじゃねーか」
呼び止めてきたのは、ところ天の助でした。天の助はところてんです。ところてんを促進して、みんなの主食にするのが夢なのです。
「田楽よりもところてんどうだ?」
田楽マンは田楽が大好き。大切な田楽マンポシェットの中にも、きちんと入っています。
でも、天の助はところてんの方がいいと言うのです。
「田楽のほうが好きなのらー」
「なんでだー!ところてんは黒みつでもポン酢でも、いろんな味で楽しめるんだぞ!」
天の助はよくふざけるし、ちょっと情けないけれど、いいところてんです。田楽マンとも仲良くしてくれます。
でも、田楽よりところてんの方が上だというのにはちょっと賛成できません。
「田楽ー!」
「ところてんだ!」
おやおや。けんかになってしまったようです。
天の助は田楽マンよりずっと年上なんだけれど、譲ってあげる気はないみたい。
「おいおい、どうしたんだよ」
騒ぎを聞きつけてやってきたのはヘッポコ丸です。真面目で、ちょっとつまらなくって、でも強くなるためにいつも頑張っている男の子です。
「田楽マンがところてん食わねえんだもーん!」
「天の助が田楽をバカにするのらー!」
ふたりのけんかはちょっと食い違っています。
ヘッポコ丸はちょっと呆れてしまったようです。
「どっちだっていいじゃないか。好みの問題だろ」
「否!ところてんこそ主食の王者だ〜!」
ヘッポコ丸は当たり前のことを言ったのですが、天の助はやっぱり納得しません。彼には彼の長年のこだわりがあるのでした。
「チキショー、なんでところてんが主食にならねぇんだー!」
「ハイハイ」
天の助は、ところてんがおいしいと思われるだけではなくて主食になる日を夢見ています。それをなだめるヘッポコ丸。
今度は田楽マンがちょっと呆れてしまって、そこから離れることにしました。

だってヘッポコ丸は田楽マンの味方には、きっとなってくれないんだもの。

正しく言えば、天の助の敵にはならないということなのです。
だからといって田楽はだめだなんて言わないけれど、仲良しのふたりはもう田楽マンのことを忘れてしまっているみたいでした。



少しだけ歩いていくと、オレンジ色が見えました。
「よう」
オレンジ色は首領パッチの色。
田楽マンに初めて友達になってくれると言った、首領パッチの色です。
首領パッチは誰よりもふざけるのと遊ぶのが大好きで、いつだって楽しそう。優しかったり、そうじゃなかったり、ちょっとだけ気まぐれ。
「天の助が田楽よりとこてんだって言うのらー」
「そうかあ。俺はコンニャクゼリー派かなー」
田楽マンはときどき、首領パッチに甘えたくなります。小さいのに、でも田楽マンよりは大きいけれど、すごく頼もしくて立派な感じがするのです。
でも、今はちょっと無理そうでした。
「おやびん」
首領パッチの隣に、大きい人が立ちました。破天荒です。
破天荒はいつもはあんまり喋らないけれど、首領パッチといると大はしゃぎ。子分として、嬉しそうにおやびんと呼んでいます。本当に大好きなのです。
いま、首領パッチに甘えたら怖い顔をしてくるかもしれません。
破天荒が本当に怒ったらどうなるかと思うと、ちょっと怖いのです。
「お、破天荒じゃねーか」
「お邪魔でしたか」
「別にー。…ん?田楽どこいった?」

破天荒はこっちを見ませんでしたが、田楽マンは別のところへ行こうと思いました。
怖い顔をされない内に。
破天荒は、首領パッチと一緒のところを邪魔さえしなければ、ちょっと怖そうだけどけっして悪い人じゃないのです。



もうちょっと歩くと、そこにはソフトンさんと魚雷先生がいました。
「ソフトン様っ、この帽子…一生懸命編みました!よければ受け取ってくださいな!」
「あ、ありがとう」
魚雷先生はおふざけが嫌いで、ソフトンさんのことが誰よりも大好き。
敵だったこともあるけれど、今は田楽マンのことをかわいがってくれることもあります。
ときどき、とくにソフトンさんのそばではソフトンさんの他には何も見えなくなって、大騒ぎしてしまうこともあるけれど。
「…あら」
「ああ、田楽マンか」
ふたりとも、田楽マンに気付いてくれたみたい。
ソフトンさんはお話すればちゃんと聞いてくれるし、肩にのせてくれたりします。とっても大人です。
でも、好きだとかそういうお話があまりでは得意ではないみたいで、魚雷先生の気持ちにはっきり答えることができません。
「プレゼントなのらー」
「ふふ、いいでしょう。でもソフトン様には特別なのよ」
「いいなー」
恥ずかしがる魚雷先生。
その横のソフトンを見ると、ちょっと違う方向に目をそらしています。

やっぱり少しだけ、好きや嫌いには不器用な人なのです。




田楽マンはそこからも少し離れて、別のところへ行きました。
ボーボボのところです。
「ん?なんだ、田楽マンか…」
「ビュティが探してたのらー」
ここにボーボボがいることに気付いたのは、今さっき。
ソフトンさんが恥ずかしいのかそらした視線が、こちらに向いていたのです。
「そうか」
ボーボボはひどいこともするし、いいこともするし、よく解らない人。
でも、敵だった田楽マンのことを仲間に入れてくれました。
本当に悪いことはしません。
そして、とっても大変な戦いをしているのです。
「ボーボボは、何をしてるのら?」
「別に何もしていない」

何もしていない。
みんな何かをしているけれど、ボーボボは違うのでしょうか。
「何もしない時間も大切なんだ。たまにはな」
それは、ちょっと大事な言葉のように思えました。


田楽マンはふと、他のみんなが気になりました。
天の助とヘッポコ丸は、もうちがう話をしているみたいで二人で笑っています。
田楽マンに気が付いて手を振ってくれました。
首領パッチは踊っていて、破天荒はそれをにっこり笑って見ています。
くるりとまわってこちらを向いて、首領パッチはポーズをきめました。
魚雷先生はまだ、照れているみたい。ソフトンさんは、こちらを見ていました。
そして田楽マンに気付くと、少し恥ずかしそうにゆっくりと、魚雷先生の方に視線を戻していました。

みんなボーボボのことが見える場所にいます。
ボーボボはみんなの真ん中なのです。

「あ、ボーボボ!」
そこに、ビュティが来ました。
「あれ?さっき、ここにいなかったよね?」
「ああ、少しだけな。水を飲みに行ってた」
「そっかー。心配しちゃったよ」
二人が会えてよかった。
田楽マンはなんだか嬉しくなりました。
「さあ、そろそろ出発するか」
「うん」
「じゃあ、僕がみんなを呼んでくるのらー」
せっかくだもの、ちょっとだけでも二人きりにしてあげたい。
田楽マンはまた、そこから離れていきました。
離れていくことは寂しいことのように思うけれど、今はそんなことはありません。
別れるために離れるのではないから。
みんな離れたり、集まったりして、でも仲間で、田楽マンはそんなみんなが大好きです。


ビュティのことも、天の助のことも、ヘッポコ丸のことも。
首領パッチのことも、破天荒のことも、ソフトンのことも、魚雷ガールのことも。
そして、ボ−ボボのことも。


いろんなことがあるけど、とても大好きで幸せです。


「みんなー、ボーボボが呼んでるのらー」









「…のらー」
「お客さん、お客さん。起きてくださいよ」
「……ん…夢?」
「お客さん、大丈夫ですか。飲み過ぎじゃ」
「はッ!ゆ、夢…夢かよ!期待させんじゃねーよチキショー!」
「どんな夢だったんですか」
「覚えてないけど、こう…その……そりゃないのらー!うわーん!」
「お客さん、落ち着いて!」
「…ミルフィーユもってこーい!ひっく!」



おやおや、どうやらこれは田楽マンの夢だったみたいです。
でもね、田楽マン。
隣に置いてあるあなたのポシェットに、こっそり一枚の紙が入れられているんです。
あなたに宛てたメッセージですよ。

きっとそれが夢を現実に繋げてくれるでしょう。
だから田楽マン、ここから先の未来をどうか頑張って。


あなたはとても大切な出会いをして、もう独りぼっちではないのだから。












もう半年ほど前、赤マル春の読み切りを読んだ直後に書きました。
『たまにはこんなのも新しいかと思って』やったような…そんな記憶が…
(私の心が)汚れているのでダメでした。オチから赤マル春(十四巻収録)に、続くんです…

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