クリスマスイブに迎えたビュティの誕生日は、それまでとはやや違った賑やかさに溢れた。




血を血で洗う殴り合いもケーキから火花飛び出す粋な仕掛けも必要ない。
主に魚雷ガールが目を光らせていることもあって、一行は『彼女が楽しく安らげる時間』を演出しようと各々必死になったのだ。

今日ばかりは不必要なハジケを控える。
敵が出てきたら一応真面目に話を聞いて、速やかに倒す。
下ネタそれなりに禁止。
首領パッチと天の助による『主食はコーラか心太か』の討論、元々うるさいので禁止。
実況解説禁止。
以下省略。

そんなこんなで魚雷ガールが監督となり、
ソフトンも周囲に気を配り、
ヘッポコ丸は思わず沸いてくる語りを抑え、
天の助は心太促進クッズもぬグッズも普段よりやや深くしまい込み、
首領パッチは無表情で地を滑り、
破天荒もそれに続いたため揃って魚雷ガールに叱られ、
ボーボボはアフロから何も出てこないようにと、
田楽マンを『大人しくしていろ』と確認した上でそこに入れておいた。


それというのも前日、彼女が普段よりも疲れた表情をしていたためだ。
ハジケのまとまりには鋭いツッコミを要する。
しかし愉快なボーボボ一行はその辺りを主に彼女にばかり依存しているため、年末も近付きテンションの上限広がるこの時期、その負担はより大きい。
そこで、せめて食欲の秋レベルには自粛しようという結論に至った。
ヘッポコ丸にツッコミを任せるという案は却下だ。彼にはまだ荷が重い。


なぜ完全に抑えようとしないのか。
それは彼らがハジケリストであり、解説者であり、ボケ殺しであり、以下省略であるためだ。



しかしハジケを抑えるというのは思いの外に難しく、
各々の気遣いは見かけ必要以上のものとならざるを得なかった。

けれどもそれも晩までだ。
宴の間ばかりは無礼講、ビュティ本人とて多少はたがを外す。
あなたが主役と言われたなら尚更だ。
成人及び年齢不詳には酒も入って、一人また一人と酔いと眠りの世界へ沈んでいった。






「首領パッチくん」
「んぁ?」
「口のまわりにクリーム、ついてるよ」
「…あらやだ!アンタなんで早く言ってくれなかったのよ!」
ぷりぷり慌てる首領パッチに、ビュティは思わず笑みを漏らした。
『パチ美』を見るのも久々な気がする。
今日の彼は、どうもそれを意識的に抑えていたらしい。
ヒロインがどうこうという台詞も聞かなかった。
「まったくもう、気の利かない子ねぇ」
「はいはい、ごめんごめん」
「まあいいわ」
パチ美は偉そうなりに、いつもよりやや甘かった。
昔よりは慣れたものだからそれがどうも可笑しくて、ふわふわとした気持ちになる。

「…ね、首領パッチくんさ」
「あ−?」
「今日、大変じゃなかった?」
「なにがよ」
「…大人しくしてるの」

ビュティとて、それに気付かなかったわけではない。
確かに今日も彼らは彼らであった。
なんでなにがと叫ぶようなツッコミもした。
しかしここ数日に比べればずっと軽いもので、実際この時間になっても未だ眠気がこない。
それは有り難かったがどうしても、特に彼の場合は、気がかりであった。

「おバカな子ねぇ」
「え、バカなの?」
「おパパな子ね」
「パパ!?父親!?」
首領パッチは相も変わらずわけの解らないことを言う。
それでも、普段よりかは力が抜けていた。
「アンタのために気なんて遣うわけないじゃない」
「そ、そうなんだ…そっか」
「気まぐれよ、気まぐれ」
「…気まぐれ?」
首領パッチとパチ美の中間に在るかのように彼は、ふふんと笑って見せた。
「俺はいつでもハジケリストだ」
「うん」
「ハジケねーわけないだろ?あるか?ないよな?いやない」
「そ、そうだね。…そうなんだ?」
一通りまくしたて、両手を上に。


「…サンタァー!!今年は俺に酢豚を寄越せええェエ!?」


語尾をあげて叫ぶ。
「…酢豚!?」
今日一日、最近と比べては静かだったためか、ビュティも思わず力をこめて叫んだ。
「酢豚だ!!具はぜんぶパイナップルで!」
「え、それもう酢豚じゃないよ!」
酢パイナップルである。
しかし首領パッチは構いやしなかった。

「ハジケって世界はなあ、小娘の考えてる十倍百倍は奥が深いのよ」

「…え」
首領パッチの言葉を一瞬理解しかね、ビュティは首を傾げた。
ハジケていないわけがない。つまり彼はやり方を変えただけで、無理に何かを抑えつけたようなことはないのだと言うのだろうか。
「まあ、アンタには二十世紀ほど早いわね」
「二千年!?」
「バカ、二十世紀は千年ちょっと前だ」
首領パッチの話は繋がっていない。
しかも何故かマイペースに満足げだった。

「……」

思えば、首領パッチは不思議だ。
特に何かを抑えた様子は無かったソフトンや魚雷ガールとは異なり、
見かけ何か抑え気味でいてくれたヘッポコ丸や天の助とは異なり、
一目には様子の変化は解らなかったボーボボや田楽マンとも異なり、
何があろうと首領パッチにぴったりの破天荒とも異なる。

「…首領パッチくん」
「なに、小娘」
「……のところには、サンタさん来るんだ?」
「来るわよ。パチ美いい子だもん」
「そっか」
「そうよ、小娘」
「…小娘かあ。私、大きくなってない?」
「まだまだね。小娘」
「ちょっとは伸びたと思うんだけどなあ」

厳しいパチ美の判定に苦笑しながら、
そのサンタクロースはどこぞの金髪男なのかも知れないと、少しだけ思った。




(…ボーボボはどこかな?)


首領パッチと隣り合わせに座ったその場所から見えるのは、
グラスを片手に無言で座るソフトン。手を振ると、応えてくれた。
横では田楽マンがのびている。どうやらノリで酒が入ってしまったらしい。
同じく酔い沈んだかヘッポコ丸も丸くなっていて、
そんな彼の横では天の助がダンディーぶっていた。
そして少し離れた場所では何やら激しい口論が勃発している。
魚雷ガールと破天荒らしいが、今度はいったい何で揉めたのだろうか。


 (…ねえ、ボーボボ)


水でも汲みに行ったのかもしれない。何にしろ明日には必要になるだろうから。
ビュティにはよく解らないが、飲み慣れない人間ならば頭痛を起こさないとも限らない。
酔い覚ましに一杯の水というのは単なるイメージだったが。


 (私、大きくなったかな?)


横にいる首領パッチを頭の上に乗せてようやく届くぐらいに、
ボーボボの身長は高い。
いつも自分が見上げる。
それでもやや少し無理があって、彼がそれに合わせてくれる。
自分はまだまだ伸び盛りと思えば時の経つのも楽しみだったが、
果たして来年の誕生日を『こうして』迎えることはできるだろうか。

「…ねえ、首領パッチくん」
「あんだよ。俺はいま暇で忙しいんだ」
「え、どっち」
「どっちもだ」
「……私、ちょっとは大きくなったと思う?」
「そうだな。明日にはボーボボの二倍くらいになってるかな」
「高ッ!」

彼の二倍といえばざっと四メートルだ。
想像すると、自分でも恐ろしい。

「まあ、俺はその上をいくんだけどな。150メートル」
「150!?高いよ!」
「今年は酢豚だがな、来年は150メートルだ150!ヒャクゴジュウ!」
「サ、サンタさんにもそれは無理だと思うな…」

いや、破天荒に首領パッチの願いときたら常識も突き破られるかもしれなかった。
想像すると、恐らく自分じゃなくても恐ろしい。


「…うん、そうかあ。もうすぐ新年なんだね」
「餅つかねーとな。餅」
「え、そこで天の助君見るの!?」




話をしながらどうにも、待ち遠しかった。

ボーボボが戻って来たなら、
隣に並んで、
どれだけ大きくなったかを測るのだ。
彼の目線にどれだけ近付いたろう。

その答が出たらひとりひとりへ、ありがとうを伝えよう。

明日にはきっと普段通り、いや恐らく普段以上の彼らになる。礼は今の内に、そして今日の分まで反応して返すのだ。
今日のような日もたまにはいい。
騒がし過ぎるほどでも、いつも通りの日々だって好きだ。




魚雷さん、色々教えてくれてありがとう。みんないつだって騒がしいから、ボケ殺しも疲れないぐらいにね。
ソフトンさん、優しくしてくれてありがとう。修行の間には息抜きもね。
田ちゃん、少しずついろいろ手伝ってくれてありがとう。明日になったら、また一緒に歩こうね。
へっくん、気を遣ってくれてありがとう。へっくんはもっと自信を持ち過ぎたっていいと思うよ。
天の助君、さりげなく考えてくれてありがとう。心太は主食にはならないかもしれないけど、けっこう好きだよ。
破天荒さん、時々手助けをしてくれてありがとう。首領パッチくんは気まぐれだけど、結構親分してるよね。
首領パッチ君、そんな気まぐれなあなたにもありがとう。
首領パッチ君はいつも熱いぐらいで、あったかい。

ボーボボ。
一緒にいてくれて、側を歩かせてくれて、守ってくれて、
ありがとう。



出来るなら、これからもみんなと一緒にいたい。
だから私も強くなりたい。
自信を持って歩けるように、
隣にいられるように。






「…とりあえず、明日もパーティかな?」
「俺は毎日がパーティだけどな」
「だろうけど、明日はクリスマスだしね」
「ねーねー、雪降る?」
「どうかなあ」





雪は好きだよ。
きっと寒くなるだろうけど、
降っても素敵だよね。






ハッピーバースデー。

ありがとう、
そして、


メリークリスマス。














生きていく内、何回ありがとうと言う機会があるでしょうか。
『はい』『いいえ』『ごめんなさい』ならどうでしょうか。
言葉の隣に感情があるのなら、溢れてくるものを形にしてあなたへと。
おめでとう。
そして、ありがとう。

読んでくださって皆様、本当に有り難うございました。

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