ふと気が付くと、森の中にいた。
柔らかい風が吹き、鳥が鳴き、近くを流れているらしい川の音と小動物が動き回る音がかすかに聞こえてくる。
頭の中はどこかぼんやりとしている。晴れた空が青い。
立ったまま寝ていたわけではなさそうだ。
「破天荒さん」
話しかけてきたのは、ビュティだった。
「どうかした?へっくんとボーボボ、もうずいぶん前に行っちゃったよ」
「いや…別に」
「じゃあ、わたしも行くから」
そう言う彼女の顔をぼんやりと見ながら、辺りを見回した。
森林の時間は正常に流れているようだった。
「…首領パッチくんと一緒に、早く来てね!」
「…!」
笑って頷いてから走っていくその後ろ姿を視界に入れたまま、立ち尽くす。
「どうした?」
ひどく懐かしい気がする声。
「あ、ビュティ!ちくしょー、ヒロインっぽい走り方しやがって!」
振り向いた、そこには。「…おやびん」
うっすらと頭に残る記憶が悪夢でも真実でも、どうでも良かった。
目の前にあなたがいる。ただそれだけが、堪らないほどに心を沸き立たせる。
「…おやびん!おやびんなんですね!」
「へ!?いやいや、自分瓶ジュースで…おい?」
不思議そうな声をあげる首領パッチを抱きしめて、破天荒は目を閉じた。
「破天荒?どうしたお前…」
「なんでも、ないんです…なんでも」
首領パッチがここにいる。
普段に増してそれを愛しく感じる己がいる。
普段と比べる、ことができる。
この温もりは紛い物などではない。
「まさか俺、ミカンか!?実はミカンだったのか?」
「おやびん…」
「…俺は首領パッチだ!そーだろ?」
「はい。そうです…!」記憶も思い出も大切だが今この瞬間に勝る幸せはない。
それはこれからも重なり、繋がっていく。
「ん?…ヤベ!おい破天荒、ボーボボ達見失うぞ」
「…大丈夫です、おやびん!このまま走りましょう!」
「そうか、よし!行け、破天荒号!」
「はいッ!」
自分がここにいる。愛しいひとがここにいる。
その現実の前には他の何もかもが意味を成さない。
全てを振り切るかのように、破天荒は走り出した。
あなたとの毎日。退屈や、嘘や空虚はそこにはない。
そして、例えどんなに離れてもあなたとの真実を忘れるようなことはない。
今までもこれからも変わりはしない。その存在だけは決して見失わない。
けれど、もう二度とあんな風に揺れ動くことはないと、懐かしい温もりに約束しよう。
例え俺に何があったとしても。
永久に続いていく、誓いとともに。