マルハーゲ四天王。
世を支配するツルリーナ四世直属の部下にして、その名の通り四強と言われている。
一般市民を毛狩りするのは各ブロックや支部、暗殺部隊などで、四天王の仕事は担当する地域の支配が主である。
むろんツルリーナから命令があればそれが仕事になるが、普段は世を飛び回り単独で毛狩りをするなり担当地域にいるなり、つまりある程度は好きにしてもいいことになっているのだ。
ただ、必要な時に発せられる命令の他にも、定例会議という形で本部に集合することがある。その時は帝国の誇る実力者四名が一堂に会するというだけあって、本部も周辺の基地も緊張に包まれる。

ところが最近、ツルリーナ四世がたちの悪いインフルエンザにやられたらしい。
定例会議の時期だというのに完治する見込みはまだないらしく、現状で集まってもいつも通りにはいかないので本部では会議を行わないことになった。
しかし反帝国勢力の活動や市民の動き、各種イベントなどそれなりに大切なことから別にどうでもいいことまで会議にかけるべき議題はまあ無いこともないので、急遽別の場所で四天王のみで集まることになった。
場所については変に揉めるよりはとツルリーナ四世の側近オクトパスカルが気を利かせ、厳正なアミダくじの結果「ハレルヤランドカッパの森北西地点の大木の上」となった。



熱で意識が朦朧としているツルリ−ナ四世の気合いのゲンコツにより、結果は「ハレルヤランド」に変更された。



たまには



そんなわけで、ハレルヤランドはマネー・キャッスル第八十七会議室。


「わざわざこう、いかにも会議室といった場所でやる必要があるものか」
「狭いしな」
「貴様等がそうでなきゃ緊張感が出ないと言ったんだろう。その為の特別室だ」
「どーでもいいだろンなの。中止にしときゃいいものを」

この城にしては珍しく、庶民的な会議室らしさを必要以上に強調して作られた狭い部屋の中。
四人の強者どもがやる気のなさそうな顔で向かい合っていた。
「いちいち報告しねーといけない事なんざあるか。ハッ」
中でも特にやる気のないOVERは机の上に足を組んで、既にだれている。
「報告するほどに大した事件もないしな」
軍艦はが頷くとリーゼントが机にゴンとぶつかった。日々あの強度を保つ苦労については、他三名の理解するところではない。
「どいつもこいつもぞろぞろオマケをくっつけて来やがって」
「お前もな」
OVERの声に軍艦が即答する。

軍艦はスズを、プルプーは禁煙とラムネを連れて来たのに対し、OVER城からは必殺五忍衆が全員ハレルヤランドに来ているのだ。

「あいつ等はがーがーわめいた挙げ句に全員引っ付いて来たんだよ!」
「フン。皆頼もしい部下に囲まれて勇ましいことだ」
ハレクラニが皮肉げに笑う。
ガタンと音をたててOVERが立ち上がり、それを睨みつける。
「テメェ」
「フ、野蛮人め」
「まあまあ」
睨み合う二人の間にプルプーが和やかに割って入った。軍艦はリーゼントを斜めに黙ってその光景を見ている。
「黙ってやがれ!」
「お前こそな」
プルプーの代わりに返答したハレクラニに、OVERの血圧がいよいよ上がっていく。
会議室らしさ、をコンセプトに作られた第八十七会議室は、派手な四人と殺気とで狭苦しさに加え異様な雰囲気に包まれていた。





一方その頃、そんな四人の部下達は揃ってカッパの森に来ていた。
場所として適当に決定された第八十七会議室は狭いため、部下達は待機せよという指示が出たのである。
正確には五忍衆にだけ「テメーらもう帰れ」という命令が出たのだが、どうせならハレルヤランドを見て行かないかという誘いによって忘れられた。

「右手をご覧ください!」
カッパの森。
を、電車が突っ切っていく。
「カッパです!」
計十一名がバランスを取るのに四苦八苦する中、一人だけ平然としたカネマールが叫ぶ。
そこにはカッパがいた。
「左手をご覧ください!カッパです!」
そこにはレインコート、もとい雨ガッパを着たカッパの集団がいた。
「更に斜め右をご覧ください!カッパです!!」
そこには傘派と書かれたカサをさしたカッパの集団がいた。
「そして斜め後ろをご覧ください!」
そこにはカッパ
が、泣きながらカサに追い回される光景があった。
「カサです!」
「そうですね」
とりあえず律儀に呟いてみたのはスズだった。
電車は当然走っているため、それらを目に留めることすら困難だというのに彼女の真面目さが伺える。

極殺三兄弟は、知っていたのにこの男に案内を一任した己がイヤになった。



「あー、そんなわけで」

メガファンは八人の客人を前にして、ひとつ咳払いをした。後ろではカネマールが頭にコブを作って呻いている。
「電車一の男に案内させるべきは電車であって遊園地ではない。それが今回の収穫だった…」
「カッパの森はもういいよな」
ビープも頷く。
「いつ爆破されるかも解らないしな」
覇王も頷いてカッパの森を振り返った。
「爆破!?」
メソポタミア文明が驚きの声をあげると、再びメガファンが頷いた。
「売れないアトラクションは爆破。それがハレクラニ様のビジネスだ」
「過激すぎるんじゃないの?」
「部屋中に爆破ボタンを隠してるのかな。ポチっとな、みたいな」
「それっぽいそれっぽい」
「ハレクラニ様に失礼なこと言うなや!」
好き勝手を言っているわけではないが、言いそうになっている蹴人とインダス文明にビープが切れた。
「ビープ、お前も客人相手に興奮し過ぎだ」
「そーだぞお前、少しは落ち着け。で、次はどこへ行くかな」
弟を諌めながら兄達は腕組をした。八人もいるとさすがに趣向が割れるだろう。
実はサービス精神旺盛な三兄弟なのであった。
「もっとこう、ポピュラーなのはないのか?」
黄河文明の問いには、メガファンが首を振る。
「いかにも遊園地ってアトラクションはすぐ飽きが来るんだよ。新しい発想が常に必要なんだ。ハレクラニ様は解ってらっしゃる」
「ふーん…商売って大変ね」
ラムネは頷いて、何となく同僚の方を見る。
禁煙はある方向をじっと眺めていた。
「何かあるの」
その問いに、禁煙は新しい発想、と返した。
「何が?」
禁煙は声に出しては喋らないが、誰もがその動作から言わんとすることを理解できる。何故理解できるのかは、ラムネを初めとして誰にも解らない。
一同は彼の指す方角を見た。

「金魚おじさんショー」


声に出して読んでしまったのは見なかったことにできなかったスズである。
客人達は沈黙した。
「あれはあれで引っかかる客がいるんだよ!」
「例外だ、例外!」
「落ち着けお前達」
「あれ、なんで出来たんだろうなあ。あんな微妙な見せ物よか電車ネタの方がいいのに」
極殺三兄弟とカネマールだけは思い思いのリアクションをとっていた。
半ギレでわめく弟二人を諌めるはめになった覇王と発想をなんでも電車に結びつけるカネマールを交互に見ながら、一同は自力で行き場所をリクエストする努力をした。
そこにぽつりと、声が響いた。

「遊べるところがいい」

声の主は、ルビー。
「見るのじゃなくて遊べるのがいい!つまんないつまんない!」
駄々をこねだしてしまった少女に、彼女の仲間達は慌てる。
「お、おいルビー、落ち着けって…」
「やだやだ、遊園地に来たんだからもっと自由に遊びたいもーん!」
「うーん」
カネマールは辺りを見回しながら考え込んだ。そういったアトラクションには常に一般客が集まっている。関係者権限で割り込むようなことをすれば売り上げが落ちるし、客人である彼らを長蛇の列に並ばせるわけにもいかない。
そもそも園内を案内する予定はなかった。こうして同じ立場の人間が集まるのは滅多にないことで、本部でなく自分達の本拠地であることもあって、どうせならと連れ出したのだ。元々彼らを接待することが与えられた仕事ではあるが、それで何か問題が生じてはハレクラニが黙っていないだろう。
頭の中に様々なアトラクションを巡らせ、カネマールは唐突にそうだ、と呟いた。
「ちびっ子エリアはどうだ?あそこなら自由に遊べる」
「なるほど。悪くない考えだ」
覇王も頷いて賛成した。
「ちびっ子エリア?」
「まあ、あそこは行けば解るよな」
「ああ」
ラムネの問いに先ほどより幾らか落ち着いたメガファンとビープが答える。
「そこ、楽しいの?」
「人気スポットだな。並ぶ必要もほとんどないし」
「じゃ、そこにしよ!」
機嫌を直したルビーの一言に反論する者はなく、次の行き先は決まった。


「おい、カネマール。あそこに電車で突入はありえねえからな」
「するか!」

カネマールが釘をさされていたが、誰もフォローしなかった。




その頃第一から第八十六までがどうなったのか定かではない通称第八十七会議室では、OVERとハレクラニの静かな対峙が続いていた。

そしてそこに軍艦が脈絡なく割り込んだためあわや大惨事になりかけていた。






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