それから数分、詩人と魚雷ガール＆サービスマンの戦いが終わり（もはやぬでもねでもないのでクルマンがストップをかけた）、半分ポリゴンにされた天の助を回収して（ゲームを中断した旧毛狩り隊最高幹部の皆さんの協力でどうにかランバダが止まった）一同は外に出た。




「いやー、えらい騒ぎになりましたね！次はまったりいきましょうまったり、はた上げゲーム参りまーす♪」
「僕のゲームなのらー！」
ほぼ無事でいられた二人はあくまで清々しい。気分様々な他一同の先頭に立って、はた上げゲームに突っ込んだ。
が、中は真っ暗だ。
「…あれ？ここはお休み？」
「いやおかしいな、そんなハズは…」
クルマンが不思議そうに辺りを見回す。
すると。

『はた上げゲームはリズムが命、根性入れて乗ってくぜッ！最も陽気なリズムはなんだ、声を揃えて言ってみろ〜♪』

唐突に鳴りだしたしゃかしゃかという音と明るい音楽とともに、スポットライトがばちばちと中心に光を当てていく。

「サンバ！」
ボーボボが唐突に叫んだ。横にいたハレクラニがぎょっとしてそちらを見る。
「サンバ！」
首領パッチも続けて叫んだ。突然のことなので乗り遅れた破天荒もポーズのみ首領パッチに合わせて腕を上げ、サービスマンは「サンバ！」ではなく「サービス！」と叫ぶ。
「するな！」
「ぐわ！」
ヘッポコ丸がそんな彼にツッコんだ。怒りのランバダによる猛攻で未だ意識を朦朧とさせている天の助は、とりあえずそこらに寝かせてある。

『サンバマーン！』

最後に音をたてたスポットライトの中心に登場したのは、誰であろうサンバの申し子サンバマン。
両サイドでボーボボ、そして首領パッチと田楽マンがポーズを取った。ついでにサービスマンのサービス。

「はた上げじゃないの！？」
ツッコミながらもサングラスを忘れないビュティ。
だがその答えが返ってくる前に、サンバマン含む五名はまとめて吹っ飛ばされた。
『おふざけ禁止ーッ！！』
魚雷ガール、ボケ殺しの名は伊達ではない。
「アンタらふざけてんじゃないわよ！特に一番右、セクハラよ！」
一番右（サービスマン）は泡を吹いてノーサービス状態だ。
「ふッ…き、効いたぜ熱きサンバのリズム…ぐはッ」
サンバマンも瀕死だ。しかし挫けない。
「こ、ここでは…サンバのリズムで旗を上げ下げするぜ」
「サンバのリズムにはのらないのらー…」
やはりボロボロの田楽マンが訴える。
が、既にスポットライトの中心は別の漢が支配していた。
「サンバ…サンバ…サンバ…」
「それプルコギ」
「おやびん最高！」
ビュティの言う通りだが、破天荒は楽しそうだ。
「ち、しょーがねーな。サンバ♪サンバ♪サン、サン、サン…」
「それパラパラ。…なの？」
「おやびん最高ォー！」
ビュティが正しいが、破天荒はとても楽しそうだ。
「ライトよこせー！」
ボーボボが突入した。
「なんの、俺が主人公じゃーい！」
「ついでに『デスノート』コラボ企画の月（ライト）役もよこさんかーい！」
激しい主役争いが勃発。
「いや、それ今関係ないよ！知らない人もいるし！」
「主人公はおやびんだろ！」
「いや、ボーボボだよ！」
人数が増えてもツッコミは増えていないのでビュティも必死だ。
「煩い連中ですわねソフトン様。…ああ、両手に花」
「…ああ」
「…両手？私か！？」
「いいえ、私はソフトン様一筋！一筋ったら一筋なのよ！」
「いや、知るか！」
魚雷ガールはソフトンとハレクラニを両サイドに置いてツッコミ休止中だ。
「……えーと」
ヘッポコ丸は困ったようにその光景を見ている。
と、肩をぽんと叩かれた。
「なあなあ」
「なんだ？」
のんびりとした声はクルマンだった。
「なんかさ、ところてんがいねーぞ」
「…え？」
ば、と振り向く。
寝かせておいた場所に天の助がいなかった。
倒れている田楽マンとサービスマンの側にはいない。ボーボボと首領パッチの取っ組み合いにも混じっていない。ビュティの横にも破天荒の横にもいない。魚雷ガールとソフトン、ハレクラニの側にもその影はなし。
「…天の助！？」
叫んだが、返事もない。
「ソ、ソフトンさん！天の助がいないんでちょっと探してきます！」
ひとまず側にいたソフトンに叫ぶと、彼は片腕を魚雷ガールに抱えられたままヘッポコ丸の方を向いた。
「なに？おい、ちょっと待…！…行ってしまったか」
既にヘッポコ丸の姿はない。部屋を出て通路の方へと走ってしまったようだ。
視線を戻そうとすると、別の視線が自分と同じ方向を向いているのを感じる。
「…？」
ハレクラニではない。彼はむっとして正面を向いていた。
視線を落とすと、魚雷ガール。
彼女だった。
ソフトンの片腕を抱く腕は硬直しており、ヘッポコ丸の走って行った方をじっと見つめている。
が。
ソフトンは一瞬、その目が魚雷ガールのものであってそうではないような、不思議な感覚を覚えた。
「…魚雷殿？」
「…………あら、ソフトン様？どうしまして？」
「…いや、魚雷殿がどうしたかと」
「あ、あらやだ。私何かはしたないことでも」
「いや、そうではないが」
見ると、既に彼女の瞳は彼女のものに戻っている。間違いなく『魚雷ガール』。
緩く首を振って視線を上げると、ハレクラニと目が合う。いつの間にかこちらを向いていたらしい。
すると彼はす、と視線を逸らしたが、何故か不可解そうな表情をしている。
まるで視線の先に、居ないはずの人間の影でも見たかのように。

天の助の意識はふわふわと宙を舞っていた。
舞っているというよりは漂っているように、全身がじんわりと暖かく心地良い。
頭の中をゆっくりと、優しい波が流れているようだった。
ぷかりぷかりと揺れながら、ふと、肩の辺りに違和感を感じる。
だがそれもまた温もり、暖かく優しかった。
程良く固い。天の助には、自分よりも柔らかいものを見ることの方が少なかった。
薄らと暖かな影が広がって、形を作っていくように感じる。
覚えのある何かの姿だ。
だんだんと、誰のことだか解るような気がしてきた。

『彼』がこちらを見ているのではないか。幻だろうか。
その名を呼びそうになった瞬間に、自分の名を呼ぶ別の声を拾い上げた。

「…んのすけ…天の助！」
「…んあー…」
「起きろ、天の助！」
ぱ、といきなり視界が明るくなって、自分を覗き込んでくる顔が目に入る。
「ヘッポコ丸ー…？」
「そうだよ…っていうかお前、なんでこんなとこで寝てるんだ？」
献上ゲームでの騒ぎからずっと気絶していたと思われる天の助が、知らない内に通路のソファの上にいた。
ヘッポコ丸が首を傾げるが、天の助にも解らない。今自分のいる場所は確かに覚えのないソファで、柔らかくはないが決して床ほど固くもない。
「移動したのか？」
「んー、覚えてねーや…寝惚けてたかなあ。みんなは？」
「あっちで騒いでるけど…」
「そっか、んじゃ行こ…あっ」
「何だよ？」
天の助が立ち上がると、ヘッポコ丸もややしゃがんだ体勢を立たせる。
「…俺、ひとりで寝てた？」
「…？ああ、そりゃ」
「んー、そーか……あ、探しにきてくれてありがとーな。ほら行くぞー」
「ん？あ、ああ」
首を傾げるヘッポコ丸の手を引くように、天の助はそこから離れた。
肩にはまだソファとも違う何かの感触が残っている気がしたが、思い出そうとするとその場から動けなくなってしまう気がした。

「……」
去って戻って行く二人を通路の影から見ながら、男はゆるりと息をした。
己の片手を上げて、見る。
肩に触れた時のひんやりとした感触が未だ残っていた。
その手で口元の飾りに触れ、再び通路を見る。どちらの影ももう残っていない。
「……」
喉から出かかった声を飲み込んで首を振る。
今の主が元の姿に戻るまでに、自分も帰らなくてはならない。

隊長、という言葉を飲み込んだまま、男はピアスからも手を離した。

二人が戻る頃には、全員が一カ所に集合していた。サンバマンはいつの間にか退場したらしい。
「よー、おまえらどこ行ってたの？」
クルマンがのんびりと聞きながら見取り図のようなものを広げている。
「そういえば気になったが、あの男は来ていないのか？」
ふいにソフトンが呟いた。
「あの男？誰？」
「あ…もしかしてタマ公？」
ビュティの言葉にクルマンが頷く。
「ああ、Jね。あいつはあそこ動くわけにいかないからさ」
「そうか、今でも。残念だ」
ソフトンの言葉にクルマンは肩を竦めながら、でも、と何か言いかけた。
そこに別の声が割って入る。
「私はここで失礼させてもらう」
「あれ？なんで？」
「よく考えたらそもそもなぜ集団行動に混じっていたのか解らん。私はデスマネースロットがどうなっているか確認しにきたのだ」
「あー、そーか」
クルマンの答えの続きを聞く前に、ハレクラニはつかつかと外へ出て行ってしまった。慣れないノリで振り回されてどうも疲れているらしい。
「うーむ、デスマネースロットとは如何なるサービス…」
サービスマンがぶつぶつとその背中を見送る。
その脇では無断単独行動をした天の助が、俺の意思じゃねーと叫びながら延々と魚雷ガールに追いかけ回されていた。ヘッポコ丸がおろおろと見守り、ボーボボと首領パッチが追いつけ追い越せひっこぬけとヤジを飛ばす。
「うーん…」
その光景を見ながら、ビュティは微かに首を傾げた。
「どうした？」
ソフトンとその肩に乗っかった田楽マンの視線に気付くと、慌てて首を振る。
「ううん、あの…なんか、前にもこんなことがあった気がして…」
「こんなことって何なのら？」
田楽マンが問うた。見える光景といえば魚雷ガールが天の助を、何故か必要以上に怒った様子で追い回しているところぐらいだ。
「怒らせすぎなのらー」
「…魚雷さんが天の助くんにばっかり特に怒るようになると…」
「そんなことよりさぁ」
その言葉を難しい表情のクルマンが遮った。
「ハレクラニさん、行っちまったじゃん」
「ああ、そうだな。仕方ないだろう、居心地も悪そうだった」
ソフトンが答えると、クルマンは首を振る。
「それはいいんだけどさ、さっきの続きでさ…デスマネースロットには」
言いかけて、溜息で閉じる。
「…ま、今言ったって聞こえないもんね。それじゃ皆さん、次はボボンバーマンにでも行きますかぁ」
相変わらず案内人を楽しんでいるようだが、どうやら彼はハレクラニの行き先も気になっているようだった。

「さー着きましたよー。ボボンバーマンですよー」
軍艦が抜けハレクラニが抜けた一行はボボンバーマン会場へと殴り込んだ。クルマンの台詞はまるで遠足の幼稚園児を誘導する先生のようだが、皆気にしない。
「ボボンバーマンか…奥の深いゲームだ」
ボーボボはその歴史を噛み締めながらしみじみと呟いた。
「俺がエネミーどもに爆弾をいやほど食わせるゲームだよな」
そんな態度のまますたすたと歩いて、首領パッチと天の助と田楽マンの口にアフロから取り出したダイナマイトをつめこむ。
「ふがー！」
「むがー！」
「んがー！」
二本の手で三人の口に突っ込むのだから器用なものだ。
でもよく見たら鼻毛も使っていた。
「…じゃなくて！そんなゲームじゃないし！それ爆弾じゃないよー！」
ビュティはどうにか正気に戻った。
「何してんだテメー！」
破天荒が首領パッチに駆け寄り、半泣きで体を揺さぶってダイナマイトを吐かせている。
既に気絶した天の助を困った様につつきながらダイナマイトを取り出すヘッポコ丸、田楽マンを無言で逆さまにしてダイナマイトを吐かせるソフトン。
ダイナマイトの取り出し方にも個性が出るものだ。勉強になった。
「て、何納得してんの！？これ私の視点！？」
「そんなことよりアレを見ろ！」
サービスマンが高らかに、かつ漢らしく叫んだ。一同彼の示す方向を向く。
まだボボンバーマンの戦場にまでは入っていないというのに、もの凄い勢いで

巨大な爆弾が転がってきた。

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