「わああ!どうして誰も気付かなかったの!?」
「なんででしょね」
のんびりそんなことを言うクルマンも気付いていなかった一人だ。
どんどん大きくなってくる黒い塊に、一同大慌てで右往左往する。
そんな中、一人の男がゆっくりと皆の前へ出た。
「ソフトン!」
「任せろ」
叫ぶボーボボに声のみで答え、すっと腕を捲るとそこには黒き炎の証が現れた。
「黒炎バビロン神、降臨…!」
「え!?」
「ウソ、ここでこんな大技やっちゃうの!?」
「相手は爆弾ぞ!」
爆弾も十分に大事である。
ダイナマイト大食いにもくじけなかった三名の外野がうるさいが、ソフトンは声ですら答えずに腕を交差する。
「黒太陽バビロン…真!バビロンの裁き!」
空に現れし神の拳が巨大な爆弾を貫いた。
一発、二発、三発。次々の衝撃に耐えられず、爆弾はその灯火を失い亀裂を帯びる。
砕けた破片は辺りに飛び散り、
アホの口の中へ。
「ギャー!」
「また爆弾食い競争かーッ!」

漆黒の魂喰らいて

受け継がれし味は至高なり

「おお、Jそっくりじゃん!」
「いや、タマ公の真似じゃなくて避難しようよ!」
J調に感心するクルマン。
ビュティのツッコミむなしく首領パッチと天の助は沈んだが、
「あら、ちょっと塩味濃いんじゃないの?」
「もーちょっとコクが欲しいトコよねー」
何かもういつものことで無事だった。
「爆弾食って平気なのか!?」
ヘッポコ丸が驚くが、その横で破天荒が飛んできた破片を拾いあげる。
「いや。これは爆弾じゃねえ」
「は?じゃ、何だよ」
「岩だ…くそ、おやびんに岩を食わせやがって」
「岩!?」
避難済みの連中がそれぞれ欠片を確認する。確かに岩だ。表面は黒く爆弾のようだったが、岩だ。
「なぜ岩が…」
ボーボボが飛んでくる破片をバカガードで避けながら呟く。
その内に、真バビロン神による宴は終焉を告げた。
「全て岩…どういうことだ」
「お前達、更にあれを見ろ!」
またもサービスマンの叫び。侮れない男である。
彼の指した先、現在一同のいる場所を見下ろせるような上の方の足場に三つの影があった。爆弾、いや岩はそちらから転がってきたので彼らが犯人である可能性は非常に高い。
しかしその三人は飛んできた破片の直撃を受けてしまったらしく、思いっきり地に伏していた。
「ト…トラップ失敗…」
「だから鉄にしようって言ったんだ…」
「て、鉄なら砕かれないのか…?重いし…」
「火薬を入れればよかった…」
「爆発したら俺等まで危ねーよ…」
三人はボロボロだ。
「…て、三バカ文明!?」
ヘッポコ丸が叫ぶ。その通り、彼らは左からインダス文明、黄河文明、メソポタミア文明。エジプトは彼らの心の中にある。
またもやメソポタミア文明のトラップミスのようだ。
「おい、あいつらこっち気付いたぞ!」
三人は慌てて立ち上がると埃や砂を払い、ババッとポーズを決めた。
「ボーボボ一行とえーとその他いろいろ!」
「ボボンバーマンによく来たな!」
「第一ステージは俺たち必殺五忍衆三大文明がお相手するぜ!」
「かかってこいやー!」
三人はわあわあと喚く。
だがボーボボ一行は誰ひとり答えなかった。
視線を三人に向けたまま、ある者は驚愕の、ある者は怯えた表情を浮かべている。
「どーした!ビビったかー!」
「ていうかあいつらが見てるの俺ら?」
三人は黙らないが、ボーボボ一行側はやはり黙っている。
代表するように天の助が、誰より怯えた表情でぱくぱくと何かを言おうとした。が。

すっぱぁん。

三バカ、もとい三大文明が気付く前に彼らの脳天に鋭いチョップが決まった。
「何やってんだテメーら」
「だ、誰だ!?」
「よしおか!」
「誰だよよしおって…うわあ!」
『OVER様!?』
三人の息はさすがと言うか、驚くべきほどピッタリ合っていた。



「…お前ら。修行サボらね−って約束したと思えばこんな所でバイトか?」
「あわわわ、いえこれは修行も兼ねてるんですよー!」
「上のフロアに蹴人とルビーもいます!」
「ついでにバイトじゃなくってボランティアー!」
がたがたと震えながら三人が叫ぶのを見上げつつ、ボーボボ一行も驚いている。
「そういえばさっきから魚雷さんが…」
「いつの間にあそこにまわったんだ?」
(…?サービスマンもいないが…)
「ていうか見たか、チョップだよチョップ。甘くねえ?」
「案外部下のことは可愛がってるのかもしれん」
各々好き勝手言う内に、OVERと三大文明の方はとりあえず話がまとまったらしい。
OVERが何ごとか言って三人が正座して縮こまり、そしてOVERが地面を蹴った、らしかった。
ばしんと音をたててボーボボ達と同じ地面へと着地する。
そして。
ずば、とややくぐもった音とともに天の助が二等分された。

「天の助ー!」

とりあえず叫んでみる首領パッチ。
「ちょっとちょっと!俺まだなんも言ってないんだけ」
「うるせえ」
再び鋏が振られて四等分。
「ぐばっ」
「顔が言ってただろーが」
「何をー!?」
鋏を調子良さそうに振り回しながら、OVERは笑った。
「斬りたかっただけじゃないのか?」
ボーボボがぼそりと呟く。
「うるせえ鼻毛。…テメー、ここで決着つけてやろうか」
「そう怒るな、血の亡者」
「誰が亡者だ!」
「あ、その反応どっかで見た」
ビュティは記憶を掘り進めた。ハレクラニだ。彼はどうしているだろうか。
「…ねえ、そういえばデスマネースロットには誰がいるの?」
クルマンに問うと、彼は難しい顔をする。
「…ほら、Jが来れないからさあ」
「うん、タマ公忙しいんだね」
「タマ公ってお嬢ちゃん…ま、まあ来れないからさ、仕方ないかって話になったんだけどさ。そしたら俺が行ってやるって言い出したのが…」





その頃、デスマネースロットでは。
退屈そうに欠伸をする男を前にして、ハレクラニが固まっていた。
仮にも自分が担当してやったアトラクション、これを歪めるような輩がいたら許さんとばかりに突入したらそこにいたのは、
「なに固まってんだ?」
「…い、いえ」
サイバー都市帝王、ギガ。
「…なぜ、ギガ様がこちらに?」
「ヒマつぶし」
ギガはあっさりそう返すと、スロットだらけの壁を見回して溜息を吐いた。
「つってもなァ、ここでよく退屈しねーな。ハレクラニよ」
「…スロットはお嫌いですか」
「同じ箱ン中同じ様な絵が回ってるだけじゃねーか」
それを揃えて楽しむのがスロットなのだが、ギガはギャンブルには対して興味はないらしい。
「ていうか絵柄、これ誰だっけ?」
四天王とその部下だが、ギガの記憶の中では薄いものらしかった。
「皆、私より格下の連中です」
「あー、お前あれだっけな。四天王最強?」
「事実ですから」
四天王最強の男ハレクラニ、に嘘はない。
「なんだよ、お前の一万ポイントって」
「一万ポイントです」
思わずきっぱり言い返す。
と、ギガはぷっと吹き出した。
「…いいねェ、お前のそういうとこ。最高じゃん」
「え?…そう、ですか」
自分の返答の態度に自覚のないハレクラニは、思わぬ言葉に一瞬戸惑った。
ギガという男は掴めない。
真拳からも解る様に芸術家、思考の方向もハレクラニとは違う。ただ時に、ハレクラニにとっては思わぬことを子供のようにして面白いと笑うのだった。
「ハレクラニちゃん、ギャンブルやるの?」
「いいえ、私はやらせる側ですから。…が、ギガ様」
「あ?」
「賭け事抜きで、絵柄の揃うところをご覧に入れましょう」
自信満々に笑う。
するとギガからも笑顔が返った。
やってみろ、と言わんばかりのその表情に、ハレクラニは自慢のスロットに触れた。





「…でまあ、ギガ様がいらっしゃるんだけど」
「ギガってそんなコト興味あるの!?」
「さあ、まー場所がデスマネースロットだしなぁ…」
「それだと何か?」
「…や、まあそれはそれとしてさ。なんでえーと、あいつらがいるの?」
クルマンは、正座したままぼーっと斜め上を見ている三大文明を指差した。
「あれ?ここの担当だからじゃないの?」
「いや、ここ担当してたのは確か…」

「わーっ、OVER様だー!」
「どうしてここにいるんですかー!?」

別フロアに繋がる扉がばァン、と開いた。
OVERの視線がじろりとそちらへ移る。
「…あァ?」
きゃっきゃと騒ぎながら現れたのは、ルビーと無限蹴人だった。
「なんでテメーらまでこんなとこにいやがる」
「修行ですー」
「人がいるっていうから入れてもらいました!でも退屈だから…あれ?」
蹴人は辺りを見回して、上の方で止めた。
「あー、あいつら!何やってんだ?」
三大文明はいつの間にか正座をやめてトランプでタワーを作っていた。
が、タワーが決して大きくないのに対し、三大文明に加えボーボボ、首領パッチ、田楽マンに破天荒までがその周りを囲んでいるので非常に狭そうだ。
「わー、ところてんさんがいるですー」
ルビーはトランプタワーに興味がないのか、OVERに片手で掴み上げられて半ば魂を飛ばしている天の助をつつく。
「OVER様ー、ところてんさんお花畑見てますよ」
「ケッ、こいつは踏んでも蹴っても死なねーよ」
「なら安心ですねー」
ルビーは笑顔で頷いたが、笑っていられない者もいた。
やや表情を歪めてヘッポコ丸が歩み出る。
「…離せよ、そいつ。いい加減」
「は?」
OVERはそちらを向くとにやりと口の端を歪めた。
「なんだ、物知り坊主。返してほしいか?」
笑って天の助を揺らす。当人の意識は未だ戻らない。
馬鹿にしたような態度にヘッポコ丸がもう一歩前へ出ようとすると、横から腕が伸びて彼を制した。
「ソ…ソフトンさんっ」
「遊んでいるならいい加減離さないか」
「なんだと?」
「そいつもいい加減楽しんでいられる場合じゃないようだからな」
OVERは手を離さず、ずいと前へ出てソフトンに何か言おうとした。
ソフトンはそのまま、ヘッポコ丸は構えたが、何故かOVERの方が立ち止まる。
「けっ。クソ真面目な野郎だな」
吐き捨てて、やはり片手に掴んだままの天の助をのぞいて呟く。
「…テメー、どこに行ってやがった?」
「なに?」
意識を手放したままの天の助は答えずソフトンが反応したが、OVERは無言でぱっと手を離した。
べちゃ。音をたてて、天の助が地に沈む。
「ところてんさーん、大丈夫ですかー?OVER様は楽しそうでよかったけどー」
「おい、余計なこと言ってんじゃねえ」
「はーい」
OVERと、天の助をぽんぽんと叩くルビーとの会話を見ながら、ヘッポコ丸はソフトンとOVERの間に視線を泳がせた。
(…ソフトンさん、OVERが魚雷だって知らないんだっけ)
「…あの男、マルハーゲ四天王だったか」
「…え、ええ?はい」
ソフトンはすんなりと納得しないような難しい表情で、OVERの背中を見る。
ヘッポコ丸は首を傾げた。
OVERもまた、ソフトンのことが解らないらしい。
「確かに会ったこと……あ。お、おい、叩くのやめてやってくれよ」
「あ、つまんないお兄ちゃん」
「…つまんないはないでしょ」
落ち込むヘッポコ丸。だが、エールはなかった。代わりに上の方が何か騒がしい。


「あ、あと一枚…一枚…!」
「そっと積め、黄河…!」
「鼻がむずむずしてきたのらー」
「バカ、よそでやれッ」
「いや、田楽マンの鼻って描かれてたっけ?」
「静かにしろよ、ボーボボ」
「ホントですね、おやびん!」
「お前もしーッ!」
「スミマセン…」


「うるッせーぞ!テメーら!」

まだトランプを積んでいた三人の部下とその他四名に、OVERから怒声が飛んだ。


「ああ、崩れる!」
「待った!待った!」
「オラァ!」
「…せ、セーフ…か…?」
「そっとやれ、そっと!」


「チッ。阿呆どもが」
「ふう、よかった…」
「蹴人、テメーも見守ってんじゃねえ!」
「あれ?OVER様、離してあげたんですか?」
蹴人はずっと、上フロアでタワーを積む一同を固唾を飲んで見守っていた。
ついでに言うとクルマンも見守っていた。ビュティはその横で呆れていた。
「ちょっと踏んでみたくなりますよねー、あの人…じゃなくてところてんか」
「……」
「わ!なんでぶつんですか、OVER様!」
「…何となくだ」

「…やった!やったぞ!」
「感動だー!」

その頃トランプタワーは今度こそマジで完成していた。
恐る恐るながらみな感動に沸いて、各々記念撮影に取りかかっている。
下で見守っている連中からも拍手が起こった。ビュティも思わず同調する。
が。



「テメーら」
「こんなとこでボヤっと」
「何やってんじゃァー!」











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